Tech-On!では,技術用語を解説する「Tech-On!用語辞典」を提供している。2006年2月までは雑誌媒体ごと,個別テーマごとなどで用語関連コンテンツをバラバラに提供していたのだが,3月にそれらを一元化し,アクセスを容易にした。

 そのTech-On!用語辞典で,2006年(1月1日~12月17日で集計)にどのような言葉の説明が人気だったのか――。そのランキングを出してみた。

1位は「ワンセグ」

 Tech-On!用語辞典のアクセスで2006年の1位は「ワンセグ」。2位をダントツで引き離してのトップである。ワンセグは,日本国内の地上デジタル放送方式「ISDB-T(integrated service digital broadcasting-terrestrial)」を使って,テレビ局が提供する携帯機器向け放送サービスの名称である。2006年4月1日に本放送を開始した(各局の女子アナウンサーらが行った2005年9月の記者発表会の記事2006年4月1日の放送開始記念イベントの記事)。

 当初は視聴者が少なかったものの,ワンセグ対応の携帯電話機がヒットしたことなどから,その数は順調に拡大しているもようだ(「ワンセグ開始から半年,放送事業者が序盤戦を語る」「NTTドコモが「903iシリーズ」など14機種発表」)。「2010年に日本国民の3割弱がワンセグ携帯を所持」)。加えて,ノート・パソコンのUSB端子に差し込んで使う小型チューナも大ヒットしており,今後の視聴者数の拡大が見込めそうだ。

2位は「RoHS指令」

 2006年のアクセスの2位は「RoHS指令(NE用語版ものづくり用語版)」だった。ちなみにRoHSは「ローズ」または「ロース」と読まれることが多いようだ。

 欧州で2006年7月に施行されたRoHS指令については,2003年ころから大手電機メーカーらが急ピッチで対応を進めてきており,対策が間に合ったところが多い。しかし,こうした大手メーカーに製品を納入している中小メーカーの戦いは,水面下でまだ続いている。

 さらに「ウチは欧州に製品を出していないから」とタカをくくっていたメーカーも,対応を進めざるを得なくなってきている。業界全体として「RoHS対応はどの地域向けの製品でも標準」という雰囲気になってきているほか,2007年3月1日に施行を控える「中国版RoHS」といった各国・各地域版のRoHSが世界中で頭をもたげてきているためだ(日経エレクトロニクス2006年12月4日号の特集記事)。今後ともRoHS指令の関連情報からは目が離せそうもない。

3位は「LVDS」

 ワンセグ,RoHS指令に続いて3位に輝いたのは「LVDS」(low voltage differential signaling)である。これは,高速の信号伝送を実現するために,情報を送るときの電圧振幅を数100mVに減らして差動伝送とした入出力信号レベルの仕様である。

 LVDS自体は以前からある仕様である。しかしなぜ2006年にこれほどの注目を集めたのか――。これにはいくつかの理由があると思われる。例えば,急速に市場が拡大しているFPD(フラットパネル・ディスプレイ)関連のインタフェースとしてどんどん使われ始めていることだ。

 まずパソコン用液晶モニタに使われているデジタル・インタフェースであるDVI(digital visual interface)はLVDSを使っている。さらに,2006年になってテレビ受像機やゲーム機などにどんどん採用され始めたデジタル・インタフェースのHDMI(high-definition multimedia interface)も,信号レベルとしてはLVDSである。このように,あまり前面には現れないものの,エレクトロニクス技術者にとって非常に重要な技術になってきたのがLVDSと言えるだろう。

4位は「HDMI」

 そして4位は「HDMI」である。HDMI端子は,薄型テレビやDVDレコーダといったAV機器がこぞって装備し始めただけでなく,パソコン用のディスプレイ,「プレイステーション 3」といったゲーム機,米Apple Computer, Inc.が米国で2007年に発売予定のセットトップ・ボックス「iTV」なども軒並み搭載しているディスプレイ用インタフェースである。今後,映像機器などを開発する上では不可欠のインタフェースになるのが確実な情勢である。

5位は「WiMAX」

 基地局から最大50km離れた多くのユーザーに対して最大70Mビット/秒と高速な無線データ通信を可能にする技術が,5位の「WiMAX(world interoperability for microwave access)」である。当初はIEEE802.16-2004の規格を用いるもので,固定系の端末に対するアクセスを前提としている。つまり,ADSLやケーブル・インターネット,FTTHなどと同じような,いわゆる「ラスト・ワン・マイル」に向けた技術である。

 ADSLやFTTHの普及が進んでいる日本ではあまり注目されていないものの,既に米国などではサービスが盛り上がりつつある(加入者数が16万人を超えたというTech-On!の記事)。加えて,これから高速通信網を築こうという発展途上国市場などを中心に,世界的に導入に向けた動きが加速している。

 最近,非常に期待を集めているのは,IEEE802.16-2004の派生版で移動体をサポートする「モバイルWiMAX」(IEEE802.16e)である。こちらも対応チップの開発や端末の開発などが急ピッチで進んでいる。

 世界市場に向けた基地局や端末,そうした機器向けのLSIなどを開発している技術者にとって,WiMAXは今もっともホットなキーワードと言えるだろう。

6位は「EPN」

 デジタル放送が本格的にスタートして以降,DVDレコーダのユーザーなどから上がっているのが「コピー・ワンス(COG:copy one generation)の制限がかかっていて使いにくい」という声である。コピー・ワンスは2004年4月からBS/地上デジタル放送で導入された。

 こうした使いにくさを解決しようと,今,機器メーカーが活発に動いている。コピー・ワンスに代わるものとしてJEITA(電子情報技術産業協会)が放送業界に向けて提案したのが「EPN(encryption plus non-assertion)」である。

 EPNでは,複数のコピーを許すかわりに,デジタル・インタフェースなどを通じて映像信号を出すときはルールに応じて暗号化処理を施す。こうすることで,ユーザーの使い勝手を改善しつつ,インターネットへの再送信といった不正な頒布を防ぐという仕組みである。しかし,放送業界との議論は依然として続いている(「コピー・ワンス」見直しの議論,事務局が5案を提示)。

7位は「xvYCC」

 「フルHD化の次の差異化要因は――」。薄型テレビでは今,他社との差異化要因として大画面化と,いわゆるフルHD化が競うように進められている。ここでフルHDのテレビ受像機とは,フルスペックのHDTV(high definition television)信号を間引くことなくプログレッシブ表示できる1920×1080画素のパネルを備え,表示可能なテレビ受像機を指す。

 AV機器メーカーが悩んでいるのは,それらの次に,どんな差異化要因で競合メーカーをリードするかである。その差異化ポイントの一つとして注目されているのが,色再現性だ。今回のTech-On!用語ランキングで7位になった「xvYCC」は,その色再現性を広げる上での基準の一つになるべく登場した,動画色空間に関する規格である。

8位は「プラグイン・ハイブリッド車」

 2006年は原油高騰の嵐が吹き荒れ,低燃費のクルマが大いに注目された。中でもダントツの低燃費で世界中の注目を集めているのが,内燃機関と電動モータのよいところを組み合わせたハイブリッド車である。

 そうした現在のハイブリッド車よりも,もっと電気自動車に近い形にしたのが「プラグイン・ハイブリッド車」である。通常のハイブリッド車よりも2次電池の容量を増やしておき,その電池を家庭の商用電源などで充電できるようにしてある(コンセントなどにつなぐので「プラグイン」という言葉がついている)。

 家庭で充電した電気エネルギーで走行できる距離が長くなるので,ガソリンや軽油などの燃料消費はさらに少なくなる。しかも,ピュアな電気自動車だと2次電池容量の関係でそれほど長距離を走れないという難点があるが,それも心配ない。エンジンを動かしてハイブリッド車モードで走行すればよいからだ。こうした利点から,一部の自動車メーカーが実用化に向けて研究開発を進めている。

9位は「Cell」

 ソニー・コンピュータエンタテインメントが2006年11月11日に発売した「プレイステーション 3」の心臓部である汎用マイクロプロセサが「Cell」である。米IBM Corp.,ソニー・グループ,東芝が共同開発した。

 PS3以外にも,科学技術計算用の演算サーバや,EDAソフトウエアのハードウエア・アクセラレータとしてなど(Tech-On!の関連記事),少しずつ応用が広がっている。PS3上で動くLinuxも開発され(同関連記事),今後,どのような機器に搭載されていくのか,注目を集めている。

10位は「UniPhier」

 そして今回の10位は,松下電器産業が開発したデジタル民生機器の開発プラットフォームである「UniPhier」だった。携帯電話機からAV機器まで,さまざまなエレクトロニクス製品をカバーし,ソフトウエアの開発などを容易にすることを狙ったものである。

 一般にはそれほど知られていないものの,その応用は着実に広がっている(Tech-On!の関連記事)。2006年12月には,UniPhierベースの第2世代の携帯電話機向けLSIも発表されており(同関連記事),組み込みソフトウエア技術者やLSI設計者などの注目を浴びている。

▼ 2006年「Tech-On!用語辞典」ランキング

順位用語
1ワンセグ
2RoHS指令
3LVDS
4HDMI
5WiMAX
6EPN
7xvYCC
8プラグイン・ハイブリッド車
9Cell
10UniPhier
11サイマル放送
12ISDB-T
13トヨタ方式
14DTCP-IP
15NANDフラッシュ・メモリ
16H.264
17白色LED
18有機半導体
19FB-DIMM
20SED

(集計期間:2006年1月1日~12月18日)