携帯機器向けのデジタル放送「ワンセグ」開始から約半年が経過した。このタイミングで,NHKと民放キー局4社のワンセグ担当者がモバイル・コンテンツ・フォーラムのセミナーで一堂に会し,それぞれの取り組みとともに現状における課題を紹介した。

 電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によると,ワンセグ端末の普及台数は2006年7月時点で約150万台に達している。普及のペースは速いが,それでも国内の設置台数が2億台といわれるテレビに比べると現時点での広告媒体としての価値は低い。各社ともワンセグのビジネスモデル構築については試行錯誤の段階にある。フジテレビ デジタルコンテンツ局 モバイルコンテンツ部 専任部長の伊東達郎氏は「現状では,通信事業者が積極的に(対応端末を)販売する理由が少ない」と指摘,携帯電話事業者にもワンセグ端末を販売するインセンティブが必要性とした。同氏は「確かな根拠があるわけではないが,広告媒体としては数千万台規模の普及台数が欲しい」とした。

「横ではなく縦で見て」

 今はまだ普及の途上にあるとした上で複数の担当者が指摘したのは,データ放送の利用頻度が低いことである。「ユーザーの多くは,データ放送が表示されない『横置き』で画面を見ている。まずはユーザーにデータ放送を使ってもらわないと,その先の新しいビジネス・モデルはない」(フジテレビの伊東氏)。TBSテレビ 事業本部 コンテンツ事業局 デジタルセンター モバイル編集長の谷英之氏は「ワンセグ端末の画面は,ぜひ『縦置き』で見て欲しい」と呼びかけた。

 端末メーカーの動向を注視するのがNHK 編成局 デジタルサービス部 部長の兄部純一氏である。「最近,データ放送が見られない廉価版の端末が増加傾向にある」と指摘,データ放送をきっかけに新しいメディアを創出したい放送事業者としては,こうした状況を好ましくないと考えていることを明かした。

 実例を示しながら,データ放送の利用を増やすためのヒントを提示したのが,日本テレビ放送網 メディア戦略局 モバイル事業部の佐野徹氏だ。同氏は,携帯電話の利用者は「指さびしい」ユーザーだと分析する。「電車の中などで携帯電話ユーザーを観察していると,5秒以上指が止まっていることがない」(同氏)。
指さびしいユーザーが指を動かしてくれるには,データ放送に分かりやすく楽にクリックできる工夫が必要だとし,同社が力を入れる野球中継やニュース番組におけるデータ放送の実装例を紹介した。例えば野球中継では,通信が必要なデータベースへのアクセスが簡単にできるような画面表示例を示した。

 実は,テレビとモバイルの連携はワンセグ以外のところで進んでいる。TBSテレビの谷氏は同社のクイズ番組「オールスター感謝祭」や,視聴者が参加するビンゴゲーム番組「東京ビンゴナイト」には,数十万人規模のモバイル視聴者が参加しているという成功事例をいくつか報告した。ワンセグの場合,共通の画面でテレビとデータ放送部を表示するという制約はあるが,こうした番組にはワンセグならではのサービスのヒントがあるのかもしれない。

ワンセグには「リーセンシー効果」がある

 日本テレビの佐野氏は,検討中の内容として「ワンセグが,新しい広告商品になる可能性」について言及した。同氏は,外出先で見る機会が多いワンセグには「リーセンシー効果」があるという。

 心理学用語であるリーセンシー効果は「親近性効果」と訳され,「駅に掲示している飲料水広告を見て,ホーム内のキオスクでその飲料水を買う」といった具合に直接的に購買につながる広告効果を指す。ワンセグにおける同効果の活用例として,ワンセグで視聴した番組のCMでファーストフード店の電子クーポンを表示し,それを入手したユーザーが近くの店舗を利用するといった例を紹介した。