製品の品質問題は,メーカーにつきものです。安全性を損なう不具合が生じ,時としてリコールに発展する例も少なくありません。実際,記者として働いていると,こうした事例に関わる機会が何度かあります。筆者も例外ではありません。中でも印象深かったのは,2000年に日経エレクトロニクスに掲載した「国内最大規模のパソコン・リコール,その舞台裏を振り返る」(前編:,後編:NEプレミアム読者の方は,アイコンをクリックするとPDFファイルで全文お読みいただけます)という記事です。NECのパソコンに発煙に繋がる問題点が発覚した件で,リコールに至った経緯と対策の詳細を,現場の担当者に寄稿していただきました。

 この記事を改めて読み返して再認識したのが,リコールの実施には多大な労力が必要だということです。問題の特定から原因の推定,対策の準備,リコールを滞りなく進める体制の確立など,舞台裏の作業は膨大かつ多岐に渡ります。今回のプリウスのリコールでも,トヨタ自動車の社内外で多数の人員が努力した結果,2月9日のリコール発表にこぎ着けたということでしょう。

 それでも,同社の対応が遅きに失したことは否めません。販売に対する影響に加え,同社のブランドイメージは大きく毀損されました。

 同社の対応が遅れたのは,過去の事例から類推すると,初期の段階で問題の重要性を過小評価したからではないでしょうか。メーカーは,品質問題が影響を及ぼす範囲を,様々な理由から見誤ります。2005年10月,複数のデジタル・カメラ・メーカーが製品の不具合を一斉に報告しました。対象となる機器の台数は合計1000万台以上。原因は,各社が採用したソニー製のCCDに発生する不良にありました。

 実はソニーは,2004年春の段階でCCDに問題が生じることを認識していました。ところが不具合が生じるのは使用条件が過酷な業務用カメラに使った場合のみで,民生機器では問題ないと判断したのです。この結果,莫大な数の製品に影響が及ぶ事態を食い止められませんでした。同社の過ちの根本の理由は,問題が生じるメカニズムを誤解していたことでした(詳しくは,『日経エレクトロニクス』,2005年11月21日号の特集「CCD不具合は防げなかったのか」の第1部:をご覧下さい)。

 今回,トヨタが対処を誤った理由の詳細は分かりません。これまでに明らかになった情報から判断する限り,「(道路運送車両法の)保安基準には抵触していない」ため,リコールに発展するほどの問題ではないとみなしていたようです。確かに,同社が言うように「強くブレーキを踏み込んでもらえればブレーキは利く」のであれば,そう考えるのも理解できますし,「一時的に制動力が弱くなる」現象も単なる「乗り味」の違いととらえていたのかもしれません。ところが,消費者の反応は違いました。同じ現象を危険と感じる消費者が少なからずおり,世論もそれに同調したわけです。今後はトヨタに限らず,こうした消費者の感覚を考慮に入れ,メーカーとは異なる消費者の論理を理解していかないと,同じ失敗を繰り返す危険があります。

 不具合への対応でしくじるメーカーが後を絶たないのは,問題の重要性を見極める際に十分な経験がないからでしょう。その一端は,具体的な先行事例から学ぶことができるはずです。今回のリコール問題について,Tech-On!ではこちらのサイトで,引き続き最新情報をお伝えしていく予定です。冒頭で紹介したNECの記事は,「他山の石として読者諸氏における問題の未然防止の参考になればと思い筆を執っ」ていただきました。トヨタ自動車からも,さらなる詳細が公開されることを期待して止みません。

ニュース(2月8日~12日)