2010年1月7日~10日の会期で米ラスベガスにて開かれた民生機器関連で米国最大の展示会「2010 International CES」。この会場で日経エレクトロニクスの取材班は,旧知のある技術者を何度も見かけた。記者顔負けの熱心さで,メモを片手に,数々の展示品に眼差しを向け,説明員に質問を投げかけていたその人物――仮にX氏とする――は,大手家電メーカーで,あるヒットAV機器を企画・開発した経験を持つ技術者である。2010 International CESの会場から,X氏は何を感じ取ったのか。帰国後の1月下旬に,あらためて話を聞いてみた。(聞き手は山田 剛良)

――2010 International CESの展示会場で,熱心に展示ブースを見て回られる姿を何度もお見かけしたとCES取材班から聞きました。今回のCESからどういう印象を受けましたか。

 まず感じたのは活気の無さ。リーマン・ショックの影響で出展者,来場者が激減した2009年からあまり回復していないように感じた。主催者の発表によると,出展社は減ったものの,来場者は増えたらしいが,むしろ減ったようにすら思えた。新規の商品の展示はあったが,思わず引き付けられるような目新しいものは無かったように思う。

 展示会としてのCESはそろそろピークを越えたのかもしれない。かつて通信のオリンピックと呼ばれた「ITU TELECOM WORLD」も活気が無くなってきたし,パソコン関連で最大の展示会だった「COMDEX」はもう無い。展示会という形式自体を考え直す必要もあるのだろう。

LG Electronicsは,2010 International CESに「世界最薄」をうたう液晶テレビを出典。

 実際,民生エレクトロニクス機器のトレンドに大きな影響力を持ち,ブランド力や利益率も高い,米Apple社米Google社といった企業は,CESに正式参加していない。彼らは自社の地位を保っているし,必要とあれば独自の発表会で人を集められる。一方で,幾つかの有力な部品メーカーは,会場外にプライベート・ブースを設けて新技術を紹介していた。彼らは技術者が集まる機会を,上手く利用しているように思った。日本メーカーは,CESに出展する意義や今後のマーケティング戦略などを,考え直す必要があるのではないか。

――各社の展示をどのように見ましたか。韓国メーカーのブースを熱心に見ておられたようですね。

 大手家電メーカーが占有するセンター・ホールでは,韓国Samsung Electoronics社や韓国LG Electoronics社を中心とする韓国勢の勢いが他社を圧倒していたね。ブースの規模も凄かったが,何より展示している商品の種類や見学者の数が多いから,一目見て活気がある。見学している人もただ見に来ただけじゃなくて,真剣そのもので他のブースと全く異なる。韓国勢は既に大きく日本を引き離し,さらに差を付けてきたように感じたよ。

ソニーが見せた25型の3D有機ELパネル。

 韓国勢に比べるとソニー,パナソニックを初めとする日本勢は見劣りがした。ブースの規模こそ韓国勢と同等だが,勢いで及ばなかった。しかも,ほぼ「3次元(3D)」一色で,展示している商品の種類が少ない。来場者の活気も今ひとつに感じた。今後の5年,10年を見通すようなハッとさせる展示も見あたらなかった。これでは将来が心配になる。

 今回のCESのセンター・ホールには,中国Haier社(海爾),中国TCL社,中国Hisense社(海信),中国Changhong社(長虹)といった中国勢も目立っていた。さすがに韓国や日本メーカーに比べると,ブースへの来場者は少ないが,ブースの規模は大きかった。展示はテレビが中心で,3D,LEDバックライト,ネット接続,省エネなどをアピールしており,日本メーカーと大差ない。TCL社に至っては多地点から裸眼立体視できるテレビを出品していた。