これからヒットするAV機器は何?――この問いに対する業界の合い言葉は,どうやら「3D(3次元)化」のようです。アクセス数で今週の第5位に入ったニュースは,富士フイルムが8月に発売する「3Dカメラ」の記事。来週月曜日発行の日経エレクトロニクス7月27日号解説記事によると,映画で盛り上がりつつある3D化の流れを,一気に家庭まで浸透させようと,様々な企業や団体が標準化の策定や製品開発に取り組んでいるようです。確かに,大画面化や高精細化が一段落したテレビが,次に「3次元」に向かうのは自然なことかもしれません。ただし読者もご存じの通り,この分野の歴史は度重なる敗北の連続です。筆者はどうしても,眉につばを付けずにはいられません。

 第一,「3D」という言葉を冠すること自体が,偽りではないかと感じます。「3D映像」や「3Dディスプレイ」などといいますが,いずれも左右の目に異なる映像を見せることで,視聴者に立体感を与えているだけです。限られた視点からの奥行きは再現できても,3次元空間に広がる被写体の豊かな容貌を余すところなく伝えるわけではないのです。ですから,たとえ複数の視点から撮った映像を使っても,視点が切り替わる際の不自然さは,今後もなかなか拭えないと思います。加えて両眼視差を利用する立体視では,両目の向き(輻輳)と目のピント合わせ(調節)の間にミスマッチが生じるため,長時間視聴するとどうしても疲れます。そもそもこうした制約がある技術を「3D」と呼んでしまうところに,ユーザー軽視の姿勢を見てしまうのは筆者だけでしょうか。

ニュース(7月24日~20日)