「おや」っと思わされたのが,今週アクセス数が最も多かった日産自動車の記事です。この記事にあるように,電気自動車もいずれは非接触で充電するのが普通になるのでしょう。家庭にあるコンセントで充電できるというだけで電気自動車はスゴイと感心していたのですが,現実の家屋で電源用のケーブルを引き回したりするのはやっぱり面倒くさい。そういう束縛なしに充電できた方がいいのは目に見えています。固定電話がケータイに変わり,パソコンのネットワークが無線LANに置き換わったように,身の回りの電子機器から自動車まで,充電も多かれ少なかれ無線になるのでしょう。その先には,特定の場所という制約からも逃れた,「充電を意識しない社会」が待っているのかもしれません。

 おやっと思ったのは,電子業界で進む全く別のトレンドについて漠然と考えていたからです。携帯電話機を皮切りに採用が進んでいる,タッチパネルを使ったユーザー・インタフェース(UI)です。Apple社のiPhoneが示したように,UIにタッチパネルを活用した製品には,ユーザーに愛着をわかせる素質がある気がします。「触れる」という行為自体が,人間の脳の奥深くに埋もれた原初的な感覚に,ダイレクトに響くからなのでしょうか。こうした製品が注目を集めているということは,たとえ相手が電子機器とは言え,ユーザーには何かと触れあっていたい願望があるのではないか。そんな妄想を育んでいたところに,「線」の束縛から逃れる技術の記事を読んだものですから,そこはかとない対照の妙に,現代人の入り組んだ心境が垣間見えた気がしたのです。縛られたくはないけど,触れあってはいたい――そんなユーザー像がふと目に浮かんだのです。

 この傾向は,随分前から指摘されています。日経エレクトロニクスが10年以上も前に掲載したこちらの記事に,濃密な関係を避け,様々なヒトやコトと細くて淡い関係で繋がっていたいユーザーの姿がありありと描かれています。その後の携帯機器の進化や情報ネットワークの発展は,ややもすると相反するこの要求を着実に形にしてきたようです。ただし,本当にユーザーの願い通りの世界が近づいているかと言えば,どうも違う気がします。目に見える束縛が減る一方で,見えないところで足かせをはめられつつあるのではないでしょうか。ネットワークに常に触れあうようになると,知らず知らずのうちに自らの行動の痕跡を残していくからです。例えば,今週最も多く読まれたコラムにあるように,気が付けば電子メールをやりとりするだけで自分の評価が左右される時代が来てもおかしくありません。いつの間にかネットワークにできあがった自分の影に縛られないよう,ご注意を。

ニュース(7月27日~31日)