3次元(3D)の映像関連ビジネスが太い幹に育ちつつある。3Dに対応した映画館の増加の勢いは衰えを見せない。米国では300億円を売り上げる映画作品も出てきた。これらを加速する標準化の動きも米国を中心に活発化している。2010年にはテレビなどAV機器も本格的に3D映像に対応する。デジタル・カメラや写真のプリントでも対応が始まった。

Interview
自然さ求め人間の目へ回帰3Dと意識させない映像が最高

露崎 英介氏
Panasonic Corporation of North America, CTO

パナソニックは今,AV機器の3次元(3D)映像への対応に,最も積極的なメーカーの一つである。2009年2月,DVDの規格化やそのオーサリング技術,MPEG-2やMPEG-4/AVCなどのエンコーダ技術の開発や提案を手掛けてきたパナソニックハリウッド研究所(PHL,米国ロサンゼルス市)内に3Dのオーサリングセンターを設置。3D映画作品を最終確認できる103型の3D PDPモニターや3D視聴覚室などを用意して,3D映像の技術開発を映画制作スタジオとの共同作業で進めている。今回は,2009年6月時点でPHL所長だった露崎氏に,パナソニックがなぜこれほど熱心に3D映像を推進するのかについて,その経緯と目指す方向性を聞いた。

─3D映像のブームは過去にも何度かあった。今,なぜまた3Dと考えるのか。

 映像のデジタル化が進んだ後,次に何をするかを合理的に考えるとそうなった。映像の歴史は,白黒,トーキー,カラー,そしてアナログからデジタルへと変化してきた歴史。ところが,単純なデジタル化のインパクトは視聴者にはいまひとつだった。もっと臨場感のある表現は何かを追求する中で,技術的にはHDの拡張で済む3Dなら,少ない追加コストで最大の効果が出せると分かった。Blu-ray Disc(BD)に盛り込んだ7.1チャネル・サラウンド機能も,3Dならそのポテンシャルを最大限に引き出せる。

 過去のブームとの違いはいくつかある。一つは,やはり今回は映画コンテンツ,それも大手の映画制作スタジオによる大型の作品が多数あること。カメラからコンピュータ・グラフィックスの技術まで,3Dの映像制作技術が大きく向上したのも大きな点だ。ほかには,以前は映像が飛び出るなど奇抜さを売りにしていたのに対し,今回は臨場感や自然さを追求した結果として3Dにたどり着いた点。

米国で3D映像技術の標準化が進行中

3D映像の「幹線道路」整備へ

 以前との違いはもう一つある。3D映像を取り扱う仕様について,映像コンテンツの生まれる場所から,流通,そしてAV機器やメガネに至る各ポイントで,標準化作業が本格的にスタートした。

 標準化をリードする米SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)は,「Home Master Format」と呼ぶ3D映像の基本データ形式の標準化に加え,3D映像産業全体の取りまとめを担当。一方,米CEA(Consumer Electronics Association)は,家庭内の各種AV家電のインタフェースを中心に標準化作業を始めた。デジタル家電の新インタフェース仕様「HDMI 1.4」は既に3Dの仕様を取り込んだ。ケーブルテレビや衛星放送での実験的な3D放送も世界各地で始まっており,それを意識した標準化も検討され始めた。

 こうした動きは米国だけではない。日本でもSMPTEやCEAに連動する形で,電波産業会(ARIB)が2008年9月に,「立体テレビ」についての研究会を発足させた。Blu-ray Disc(BD)ではパナソニックやソニーなどが標準化を主導中。カメラ映像機器工業会(CIPA)の3D写真用データ形式など,標準化が完了したものもある。

『日経エレクトロニクス』2009年7月27日号より一部掲載

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