暑い。睡眠と起床の狭間にある意識に,真っ先に浮かび上がるのがこの言葉である。梅雨明けした関東地方に朝から降り注ぐ鋭い陽光が,日当たりの良い寝室をこれでもかと温める。じっとり湿った肌にまとわりつく,生暖かいシーツの感触で目覚めるのは,決して気持ちのいいものではない。まだ夏は始まったばかり。しかも我が家にエアコンはなく,当分導入するつもりもない。

 世間は環境ブームである。今週の記事ランキングを見ても,電気製品から自動車に至るまで,環境に加わる負荷の低減が狙いとおぼしき話題ばかりだ。天の邪鬼な自分は「しかし」と思う。本当に地球のためと言うのなら,そもそも電気を使わなければいいし,クルマに乗らずに済ませばいい。特にエアコンの利用には,何となく罪悪感がある。幼心に刻まれた贅沢品という印象を拭えず,「夏は暑いのが当たり前,我慢すれば何とかなる」と常々自分に言い聞かせている。そもそも最近の日本人は,我慢が足りないのではないか。

 人類が科学技術を発展させてきたのは,過酷な自然と折り合いを付け,豊かな暮らしを営むためだったはず。しかし最近は,それが行き過ぎている気がする。職場がある東京都心では,オフィスビルやマンションからあふれ出したエアコンの熱気で,外は歩けないほどの暑さ。なるほど,人類が放つ熱気に地球が負けて,温暖化が進んでも不思議はない。ところが電車に乗れば,冷房が効きすぎで風邪を引きそうなほどと来る。これでは本末転倒ではないか。クールビズなどと言ってるくらいなら,全員短パンTシャツで出社し,窓を開け放して仕事した方が,よほど地球にも体にもいいだろう。

 それはまあ無理だとしても,自分はこの夏をエアコンなしで過ごしてみよう。今の住まいに引っ越して半年余り。風通しがいいのが自慢の場所だ。本当に暑い一時期さえ凌げば何とかなる。――と決意してはいるのだが,ここ数日の熱暑は少々身にこたえる。初老と言われて数年。妙に早くなった目覚めに暑さが拍車を掛けるから,昼過ぎにもなるとうつらうつらと眠気に襲われ,大切な業務にも影響が出かねない。まだ8月にもなってないと考えると,目の前がちょっと暗くなる。いやいや,弱気を出してはいけない。こうなったら勝負である。暑さが勝つか,忍耐が勝つか。人類と地球の将来を占うささやかな根比べは,まだ始まったばかりだ。

ニュース(7月13日~17日)