あ~面倒くさい。歳のせいか,生まれつきか,単に気が緩んでるだけなのか。最近こうぼやくことが多くなってきました。とりわけ電子機器を相手にしているときがそうです。仕事をすれば面倒くさい。パソコンでちょっと作業をするだけでも,見る見るうちにウインドウが増えて,目当てのものを探すだけでも一苦労です。家に帰っても面倒くさい。HDDに録画した番組をDVDに移したいだけなのに,メニューを行ったり来たりの繰り返しです。

 実はこの面倒くささは,快感への第一歩だということを,つい先日知りました。仕事柄,外出先でパソコンをインターネットにつなげるために,無線データ通信のモデムを使っています。これまでケーブルでUSBポートにつなぐものを利用していたのですが,最近無線LANで接続する製品に代えました。するとどうでしょう。単に線がなくなっただけなのに,予想を超えた快適さです。付け外しの手間がないのはもちろん,パソコンにつなげている際の置き場に困ることもなくなりました。以前はパソコンからぶらぶら吊り下げていて,邪魔なことこの上なし。おまけに,どうも調子が悪いと,事業者に送り返して調べてもらったところ,ケーブルが断線していたこともありました。こういった煩わしさから一挙に解放されたのです。

 もう一つ,オンラインのファイル同期サービスもオススメです。会社で終わらなかった仕事をノート・パソコンで継続しようと思ったときに,従来はUSBメモリにコピーして必要なファイルを移していました。これがまた面倒なばかりか,うっかり重要なファイルを見落としていて,結局作業ができなかったりします。そこでネットを検索したところ,無料で使えるファイル同期サービスを見つけました。複数のパソコンにクライアントのソフトウエアを組み込んでおくだけで,特定のフォルダに入れた全てのファイルを,サービス元のサーバーを介して,常に最新の状態に保ってくれます。これがまた便利。別のパソコンの状態が,ソックリそのまま移動してきた感覚です。単に手作業が減ったという「楽」の域を超え,自分に超自然的な力が与えられたかのような快感までこみ上げます。無料で使える容量の制限が近づいてくれば,いずれ有料のサービスにまで手を伸ばしてしまいそうです。

 思えば,かつて大ヒットを飛ばしたiPodも同じでした。大容量のHDDを内蔵することで,曲をいちいち入れ替えなくて済むようになったことが,iPodへの愛着の源泉だったはずです。必要が発明の母だったのは昔の話。あらゆるモノがあふれた現在においては,「面倒くさい」がイノベーションの生みの親なのです。

 ここでいつもの話ですが,日本人は「面倒くさい」を解決するのがあんまり得意でないのかもしれません。冒頭に書いた録画機のメーカーが,使いやすさに気を配っているのは確かです。リモコンを見ればボタンの一つ一つに日本語の説明が書いてありますし,色分けしたボタンを何に使うのかは,その都度画面に表示されます。しかし,それでも面倒くさい。自分が想定している操作手順とメーカーの想定が食い違っているのか,はたまたメニューの階層が入り組みすぎているのか,何度やってもつっかえてしまいます。

 恐らくこれは,勤勉な日本人の性なのではないでしょうか。楽をすることは恥ずかしいという観念が,心の奥底に根を張っているからでは。もはやそんなことは言っていられません。業界のタブーともいえる構造に挑み,画期的なスピーカーという果実を得た技術者たちのように,新たな道を切り開くには,自分たちが暗黙のうちに避けている手段にも取り組まなければならないのです。ノーベル平和賞に輝いたワンガリ・マータイさんは,環境活動の合い言葉として「MOTTAINAI」を提唱しました。停滞する日本の産業界に光をもたらすために,今こそ「MENDOKUSAI」を掲げようではありませんか。

ニュース(1月18日~22日)