「電車用モーターを動かせます」,三菱電機がSiC製ダイオードを利用した300kW級インバータを試作
三菱電機は,SiC製ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)とSi製トレンチ型IGBTを利用した,出力300kW級のインバータを試作した。「電車のモーターを動作できる出力」(同社)である。インバータのダイオードを従来のSi製からSiC製SBDに置き換えることで,電力損失を平均18%ほど低減できるとみる(図1)。電力損失を低減することで,インバータの小型化,あるいは発熱量が減り,冷却機構の簡素化につながる。同社はSiC製パワー素子の開発と,その素子を利用したインバータなどの開発に取り組んでいる。こうしたインバータの出力は今まで数十kWだった(Tech-On!関連記事1)。今回のような,100kWを超える高出力なインバータを試作したのは今回が初めてである(図2)。
試作したインバータを利用し,300kW級の3相交流のモーターを実際に駆動させた(図3)。インバータは3個のパワー・モジュールで構成する。パワー・モジュールの定格電流は1200Aで,耐圧は1700V。実際の電車では,「100k〜150kW級のモーターを複数個利用する場合があるので,300kW級インバータを利用すれば,こうしたモーターを2個駆動できる」(説明員)という。
採用素子は実用性を重視
今回,出力電力を高めるために,定格電流75A,耐圧1700VのSiC製SBDを複数個並列につなげた。具体的には,ハイサイドとローサイドでそれぞれ16個のSBDを並列に接続し,パワー・モジュール1個当たりで計32個を搭載した。三菱電機は,75Aを越える定格電流のSBDを試作済み。こうした大電流品を利用するほど,必要となる素子数は少なくて済む。だが今回は,「実用性を考慮し,素子間の特性ばらつきが小さい75A品を利用した」(説明員)という。
一方,Si製IGBTは,定格150A,耐圧1700V品を,ハイサイドとローサイドでそれぞれ8個並列に接続した。パワー・モジュール1個で,計16個のIGBTを搭載する。今回採用したトレンチ型IGBTを三菱電機は「CSTBT」と呼ぶ。電車向けインバータでの本格的な利用はこれからだが,他分野で実用化済みだという。
試作品のような,定格1200A,耐圧1700V,出力300kW級のインバータであれば,750Vの直流架線の電車を駆動できるという。例えば,日本の都市部にある地下鉄やモノレールなどである。日本国内では,1500V直流架線の電車の比率が高いが,欧州などでは750Vが多いという。
具体的な実用化時期に関しては,「研究開発側としては,できるだけ早く実用化したい」(三菱電機)とし,明言を避けた。今後実用化に向けて,十分な信頼性の確保とその検証などを行う予定だ。電車の場合,汎用インバータに比べて高い信頼性を求めるという。「電車は走ったり止まったりを頻繁に繰り返すなど,動作状況が刻一刻と変わるため,熱サイクル条件が厳しい。その上,20〜30年間は安定して動作しないといけないなど,より厳格な安全基準を求められる。産業機器向けインバータでは,約10年動作すればよい場合が多い」(説明員)という。
4インチの試作ラインを敷設
三菱電機は,今後計135億円ほどを投じてSiC製パワー素子の試作ラインを福岡市内に設けることを明らかにしている(Tech-On!関連記事2)。その内容の一端についても明らかにした。この試作ラインは4インチ基板の利用を想定したもので,実際には基板上にエピタキシャル層を積層した,いわゆるエピ基板を用いる。「量産するには,少なくとも4インチ・サイズが必要」(説明員)だからだ。
試作ラインで製造するSiC製パワー素子は, SBDだけでなく,MOSFETといったトランジスタも対象となる。さまざまな用途に適用することを考えているので,出力電流から耐圧まで多種多様な素子を試作して量産に向けた課題の検証,解決などを図る考えだという。












