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第1回:難攻不落の暗号を落とせ(上)

堀切 近史
2010/01/19 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2002年6月17日号 、pp.211-213 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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かつてスパイ小説や軍事技術を連想させていた「暗号」。今では,インターネットや携帯電話をはじめ社会生活のインフラストラクチャーに必要不可欠な技術として広がっている。三菱電機は,暗号の世界で後発だったにもかかわらず,10年余りでW-CDMA方式の第3世代携帯電話向け標準暗号の開発にこぎ着けた。その誕生の経緯は,暗号研究を始めたばかりの1人の男が15年間一度も破られなかった米国標準暗号「DESデス」を解読することから始まった。


 01100101 10010101 01100101 ....
 11001010 10001101 11100101 ....

 誰もいない休日の社内,松井充は来る日も来る日もディスプレイに浮かび上がる「0」と「1」の白い数字に目を走らせていた。

松井充(まつい・みつる)氏
三菱電機への入社は1987年。入社後の数年間は,誤り訂正符号に関する研究開発にのめり込む。ある暗号解読の研究成果との出会いをきっかけに,いつしか暗号の研究に本腰を入れるようになる。現在は三菱電機 情報技術総合研究所 情報セキュリティ技術部 チームリーダー。(写真:福田一郎)

 一見無秩序な56ビットのデータは,松井にとって重要な意味があった。暗号の「鍵」を探していたのである。15年間一度も破られたことのない米国標準暗号「DESデス」の解読は,大詰めを迎えていた。

 1993年の夏。世間は新たな時代の到来に期待を膨らませていた。ロイヤル・カップル誕生の興奮の余韻に浸り,非自民連立政権の登場に快哉かいさいを叫んだ。

 松井の仕事もまた,一つの時代を画するものだった。好奇心から始まった解読実験は,後に「MISTYミスティ」と呼ばれる暗号を生み出し,第3世代携帯電話が利用する国際標準暗号「KASUMIカスミ」の誕生につながっていく。松井自身はもちろん,同僚たちの人生の針路も大きく変えることになる。そんな将来が待っていようとは,まだ誰も知らない――。

再び数学の世界に

 神奈川県鎌倉市。三菱電機の研究所は,鎌倉市が横浜市と接する場所,大船にある。大船は,庶民的でにぎやかな街だ。日本映画の聖地と呼ばれた旧・松竹大船撮影所があったことから,かつてはお昼時にもなると,街角の定食屋に松竹映画の看板役者が出入りする姿が見受けられた。

 JR大船駅から横須賀線に乗って10分。鎌倉駅を降りると,鶴岡八幡宮に続く参道がすぐそこにある。休日になると松井は,鎌倉の名所旧跡を訪ねて大船から足を運んだ。幾星霜を経た境内を散策しながら,松井は数奇な巡り合わせに思いをはせた。

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