ライバル社の新商品、悔しいですがナカナカの評判です。開発の現場の第一線から退いたアタシに直接は関係なくても、気になるのはしょうがありませんヤネ。売ってるお店を探して買いに出掛けることになりました。一人で行くのもいいのですが、たまには若い者を誘って、帰りに赤提灯でノミニケーションと、アスパラに声を掛けたんですが、それがウラハラに…。

 「次郎さん、そんなものネットで買えばいいじゃないですか。時間のムダですよ」。なんてこった、そう言われちまったんです。

 「おいおい、時間のムダだって? 一体、何がムダなんだ。ライバル社の商品がどんな客に売れているのか、お店の店員さんがどのように売っているのか、それを見に行こうてェのが、ええっ、何がムダなんだよォ!」。大人げなく思わず大きな声を出しちまいました。アスパラ、ビックリしてましたが、要は、実態を知ることが大切てェことですよ。

 昔のことを思い出しました。売れるだろうと、自信満々で発売した商品が、ちっとも売れない。何でだろうと、お店に行ってみると、何と、我が社の商品はライバル社の陰に隠れて置いてあるじゃありませんか。あわてて店員さんに聞いてみると、「だって、商品の詳しい説明はないし、アンタの会社、売る気がないんじゃないの」。うちの営業、売り場への働きかけが全然なかったんですナ。第一、ライバル社の商品がなぜ店員さんに気に入られているのか、それも知らなかったのです。まずは、ライバル社の商品を買ってしっかり分析。そして、店員さんへの働きかけをどうするか。全社を挙げての現場応援、ちゃんと作戦を立てて臨みました。すると正直なもんですナ、商品の良さがお客に伝わって見る見るうちにヒット商品になったてェわけです。

 考えてみると、今の世の中、確かに便利にはなりましたヨ。でも、その便利さの裏に、手抜きや怠慢てェことも隠されてるんじゃあないですかネ。おっと、また年寄りの昔話、なんて言っちゃあいけませんよ。これは本質なんですゼ。自分の足で現場に出向き、供給側のメーカーじゃなくて、消費者、つまりお客の立場で商品を見る。さらに、売り場の店員さんたちの応対はどうか、もしも店員さんの応対がぞんざいなら、我が社の商品に愛着がないてェわけで、売ってくれるはずはありゃしません。

 アスパラ、少しは分かったらしく、「次郎さん、スミマセン。これからは、自分の足で売り場に出掛け、自社商品もそうですが、他社の商品もしっかりと見るようにします」。

 「分かりゃあいいんだ、さァ行こう」。そう言うアタシに、「今日はダメなんです。これからデートがあるんです」。なにィ~と言いかけたアタシでしたが、その場をとりなすようにお局が、「いいじゃない次郎さん、付き合うわよ、アタシが」。かくて、お局と一緒に行く羽目に。

 早足のお局、数軒回ることになりました。「次郎さん、このお店、実は経営者が代わって、今は利幅追求なのヨ」。「ここはネ、昔からのお付き合いを大切にしているお店」。「ここはダメ。店員さんがヤル気ナシ」。まァ、お局の詳しいことといったら、ビックリです。

 「何で、そんなに詳しいんだィ」。そう言うアタシに、「だって、うちの商品が売れているかどうか、社員なら気になるじゃない。入社してから、ずうっと見てるのよォ」。おいおい、お局、ジンと来るじゃァねェか。「行こう、いつもの店に!」。

 というわけでいつもの赤提灯。部長も呼んで、大いに盛り上がりました。「ありがてェナァ、嬉しいねェ。ずうっと見ていてくれたのかァ。やっぱり、開発マンは自分の足で行かなくちゃァいけねェ!」。部長のペースもあがります。もちろん、アタシもお局も、飲むほどに酔うほどに…。

「アタシは開発マンじゃないけど、当たり前のことをしてるだけ。でも、ヒット商品が少ないの、問題ネ」。ああ、お局、いつもながら、最後の締めが見事です!