目が痛い。どうしようもなく痛い。わずかの間も開けていられず,まばたきが止まらない。こらえ切れず眼科の戸をたたいた。診断はドライアイ。すぐに目が乾いてしまう疾患だ。恐らく仕事のせいだろう。一日中画面を見ていると話したら,医師も納得顔だった。

 実は自分が本当に疑っている原因は,気恥ずかしさが先に立って,とうとう口に出せなかった。iPhoneである。Webサイトの編集部署に異動してからよりも,iPhoneを使い出してからの方が,明らかに視力の衰えが加速している。行き帰りの電車はもとより,目覚ましの機能を止めてから布団に入って電源を切るまで,一日中目の前にiPhoneがある。眼前の画面を食い入るように眺めることが,かつてなかった負担を目に強いるのだろう。仮に画面が電子ペーパーに代わっても焼け石に水である。書籍を読むにはいいだろうが,動画の再生にはやっぱり鮮やかに発色するディスプレイが欲しい。そして一旦ドライアイになってしまえば,試しに紙の本を開いてみても,目を開け続けるのは至難の業なのである。

 「テレビからもっと離れなさい」などと怒られた時代は今や昔。iPhoneのような端末の登場で,動画や書籍を好きなだけ楽しめる環境を誰もが手に入れられるようになった。この自由の前に立ちはだかる壁が人間の体である。ちょっと目が痛くなっただけで,コンテンツを楽しめなくなってしまうのだ。この限界を乗り越えるには,恐らく人間の体を変えるしかないだろう。人の目を電子部品で置き換える試みは着々と進んでいる。いずれは直接脳に映像や音声を送り込めるようになるかもしれない。そうなればドライアイの心配は皆無だし,イヤホンを押し込んだ耳がじんじんと痛むこともない。

 何だか末恐ろしい未来である。一方で,深く考えなければ,あっさり受け入れてしまえるような気もするのである。

ニュース(8月31日~9月4日)