新しい市場やビジネスを切り開くためには,従来の概念を打ち破った全く新しい発想が求められる。このような観点から,本連載では,電子ペーパーの未来を開く斬新な発想やアイデアについて,これまで議論してきた。今回は少し現実に戻り,近い将来の「電子ペーパーがある生活」について展望する。「Kindle」と「iPhone」の電子書籍の体験レビュー,そして近未来の「理想の電子書籍サービス」について,テクニカル・ライターの田中裕子氏に語ってもらった。(Tech-On!)


 電子ペーパーコンソーシアムでは,これまでの電子ペーパーの概念を打ち破った夢のある議論が繰り広げられている。このことは,これまでの記事で十分お分かりいただけたと思う。新しい文化やビジネスは固定概念を取り払った自由な発想から生まれるのが常で,これは電子ペーパーの未来にとって欠かせない活動だということは間違いない。でも,今回は少し現実に戻り,近未来に焦点を当てて,近い将来実現しうる電子ペーパーがある生活を想像してみようと思う。

 電子ペーパーはその名の通り,紙に代わるものとして期待を集め,発展してきた。現在は液晶ディスプレイなども大画面,低コスト生産が可能になり,「表示装置としての電子ペーパーの存在意義は?」と思う人も多いだろう。しかし,「読む」という行為に関しては,紙という長らく人類に親しまれていた媒体に近い“人との親和性”が電子ペーパーにはある。米Amazon.com, Inc.が提供する電子書籍端末「Kindle」と書籍コンテンツのサービスがすんなり受け入れられたのは,読む行為に対する電子ペーパーの親和性の高さも一因としてあるだろう。

電子書籍ビューワとしてのiPhone

 Tech-On!読者の方々には「iPhone」のユーザーも大勢いると思う。私も,米国で発売された初代iPhoneからのユーザーである。今ではスケジュール管理などに欠かせないデバイスだ。iPhoneには機能を拡張するさまざまなアプリケーションがそろっていて,電子書籍関連のアプリケーションとコンテンツも海外を中心にたくさんリリースされている。本稿執筆時点でその数8400コンテンツ以上!(日本の「AppStore」でダウンロードできる,漫画や写真集なども含む電子書籍カテゴリのアプリ&コンテンツ数)

 しかし,実際に日本で人気の高いコンテンツは漫画や写真集が中心である。コンテンツを読むためのアプリも,本のページをめくる感覚に近いiPhoneの操作性が全く生かされていない。iPhoneで「本を見る」ただのPDFビューワが多いのが現状だ。iPhoneで書籍を読んでいると「あれ? 目次からそのページに飛べないの?」,「本のページをめくるようにページがめくれたらいいのに」,「このフレーズ,コピーしておけたらいいのに…」,と不満に思うことが多い。日本で漫画や写真集コンテンツの人気が高いのも,書籍アプリが画像のビューワにしか過ぎない機能しか備えておらず,iPhoneで「本を読む」ことに価値を見いだせないものばかりだからかもしれない。