韓国Samsung Electronics Co., Ltd.,ソニー,パナソニック。世界の名だたる家電メーカーがしのぎを削る大型テレビ市場。ここでは各社が巨額の研究開発費を投じてパネル技術から画像技術までを開発し,さらに巨額の設備投資を敢行して熾烈な競争を繰り広げている。ベンチャ企業が,大手に伍して独自技術を使った大型テレビ製品を生み出すことなど難しそうに見える。

 ここに果敢に挑戦しているのがベンチャ企業のマイクロプレシジョンだ。同社は,「レーザー・プロジェクション」という独自技術によって消費電力を大幅に削減できる大型テレビの開発を進めている
『NIKKEI MICRODEVICES』2009年9月号に関連記事)。ここで,モノクロながらも動画の再生と同方式が狙い通りに動作することを確認した。今後,実用化に向けた開発を進め,2013年以降の製品化を目指す。

動画 実際にシステムを組み上げて動画を再生(約1分5秒の動画)
まず超低速ポリマーMEMSスキャナの構造図,次に光源レーザーと
非シリコン高速MEMSスキャナと超低速ポリマーMEMSスキャナを
組み上げた実際のシステム,再度に動画再生の様子とそこに赤,緑,
青の蛍光体を差し込んだところ,を順に示している。


ビデオ再生にはWindows Media Playerが必要です。
再生ボタンをクリックするとビデオが始まります。
Powered by BPtv

 レーザー・プロジェクション技術の基本原理は一見単純である。従来のCRT(cathode ray tube)テレビにおける電子ビームを,レーザー光に置き換えている。これにより,電子ビームのために必要だった真空環境が不要になる。CRTテレビではガラスを加工して内部が真空のCRTを作っていた。大型のCRTを製造するのが難しく,製造できてもコスト高になることが,CRTテレビが液晶テレビやプラズマ・テレビに置き換わっている一因である。レーザー・プロジェクションでは,このようなCRTテレビの欠点がレーザーの利用で解消した。

 一方,CRTテレビと同様にスキャン方式を採用することで,消費電力を削減できるようにした。液晶テレビ,さらにはDMDをつかった大型プロジェクタはいずれも,常に全画素分の光を必要とする。これに対してCRTテレビや今回のレーザー・プロジェクションは瞬間的には1画素しか光を必要とせず,さらにその1画素も暗い映像なら照射する電子ビームやレーザー光を暗くすることができる。このため,原理的に低電力化に向く原理になっている。同社の試算では,65型クラスの大型テレビにおいてDMDを使ったプロジェクタの1/2~1/3に低電力化できるという。

 今回はレーザー・プロジェクション技術を使い,モノクロの動画映像を再生,基本動作を確認した。市販の青色レーザーを使い,上下方向にレーザーをスキャンさせる「超低速ポリマーMEMSスキャナ」と,水平方向にスキャンさせる「非シリコン高速MEMSスキャナ」を組み合わせた。カラー表示のための技術的な課題は大きくない。CRTの表面と同様,レーザーを照射するスクリーンに3原色の蛍光体を塗布すればよいからである。動画再生を実現できたため,「具体的な問題点がハッキリしてきた。これを解決して大型テレビの実用化を目指す」(同社代表取締役会長の浅田規裕氏)。

■変更履歴
記事掲載当初,「液晶テレビやプラズマ・テレビ,さらにはDMDを使った大型プロジェクタは」としていたのは,正しくは「液晶テレビ,さらにはDMDを使った大型プロジェクタは」でした。また一部に誤字がありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。