図1 光触媒効果を持つ酸化チタン粒子は光(紫外線)が照射されると,電子とホール(正孔)の対をつくり,表面で還元反応と酸化反応を起こす。上は通常の球状粒子で,同一表面上で電子とホールで再結合して,酸化反応や還元反応を阻害する反応(逆反応)が起こる。下は結晶面を制御した粒子で,ある結晶面では還元反応が,別の結晶面では酸化反応がそれぞれ優先的に起こり,光触媒機能が高まる(図は横野教授が提供)
図1 光触媒効果を持つ酸化チタン粒子は光(紫外線)が照射されると,電子とホール(正孔)の対をつくり,表面で還元反応と酸化反応を起こす。上は通常の球状粒子で,同一表面上で電子とホールで再結合して,酸化反応や還元反応を阻害する反応(逆反応)が起こる。下は結晶面を制御した粒子で,ある結晶面では還元反応が,別の結晶面では酸化反応がそれぞれ優先的に起こり,光触媒機能が高まる(図は横野教授が提供)
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図2 水熱合成したルチル型酸化チタン粒子の各結晶面。透過型電子顕微鏡の電子線回折像(図は横野教授が提供)
図2 水熱合成したルチル型酸化チタン粒子の各結晶面。透過型電子顕微鏡の電子線回折像(図は横野教授が提供)
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 九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系教授の横野照尚氏の研究グループは,光触媒として使われている酸化チタン(TiO2)の結晶面を構造制御する粒子合成手法によって,有機物などを分解する能力を大幅に高めることに成功した。

 光触媒効果を持つ酸化チタン粒子は,光を照射すると電子とホール(正孔)の対ができ,粒子表面での電子による還元反応と,ホールによる酸化反応によって有機物などを分解除去する機能を持っている(図1)。しかし通常の球状粒子では,同一表面上で電子とホールが再結合して,酸化反応や還元反応を阻害する反応(逆反応)が起こる。横野教授らは,酸化チタンのある結晶面では還元反応が,別の結晶面では酸化反応がそれぞれ優先的に起こることを見い出した。そこで,それぞれの結晶面で還元と酸化の反応が別々に起こるように制御し,同じ結晶面で還元と酸化反応が同時に起こらないように分離することによって,光触媒性能を全体として向上させることを可能にした。

 実際には,結晶面を構造的に制御したルチル型酸化チタン粒子を水熱合成法によって合成し,その光触媒機能によって,刺激臭を持つホルムアルデヒドを酸化分解させたところ,市販品の球状粒子のアナターゼ型や従来のルチル型に比べて,3モル/dm3試作品では約2倍の分解能力を示した。照射した光は波長350nm以下,12mW/cm2であり,ホルムアルデヒドの分解は二酸化炭素(CO2)の発生量で測定した。

 ルチル型酸化チタン粒子の水熱合成法は,具体的には酸化チタンの前駆体に3塩化チタン(TiCl3)水溶液(約20%希塩酸溶液で)を用い,塩化ナトリウム(NaCl)水溶液の下で,200℃・6時間の水熱合成を実施し,ルチル型酸化チタンの細長い粒子を合成した。作製したルチル型粒子は棒状の側面が(110)結晶面で,先端部の45°にカットされた結晶面は(111)面に,最先端は(001)面になっていることを,透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折像から明らかにした(図2)。

 横野氏の研究グループは,ルチル型粒子の側面の(110)結晶面では,白金(Pt)粒子の還元による析出反応を確認した実験によって,側面では還元反応が優先的に起こっていることを明らかにした。反応の解析はエネルギー分散型X線解析(EDX)によって行った。一方,棒状粒子の先端部の(111)面では,酸化反応が優先的に起こっていることを鉛粒子の析出現象から明らかにした。こうして,結晶面を構造制御することで,電子とホールが同一表面上で再結合しないようにコントロールできる。

 照射する光には紫外線域のものを使っているが,横野氏は現在,酸化チタン粒子の各結晶面の表面に鉄イオンなどの遷移金属イオンを修飾する手法によって,可視光でも光触媒反応を高性能化する開発にもメドをつけたとしている。