生まれ故郷の隣には,製紙が盛んな市がありました。そこを横切るときに漂う独特の臭気や,港湾に流れ込んだヘドロが引き起こした騒動は,子供心に強い印象を残しています。だからなのか,紙は工業製品の代表例のように考えていました。そんな自分にとって,今でも昔ながらの手作業で和紙をつくり続けている人たちがいることは新鮮な驚きでした。日本人の生活に紙が深く根を下ろしていることも,取材を進める中で改めて思い知らされました。

 もちろん手作りという方法論を取る限り,昔と同じ用途に向けるわけにはいきません。紙の主要な使い道である,情報を記録し大量に配布する役割は,今では機械でつくる「洋紙」の独壇場。現代にあって手漉きの和紙が生き残るには,より付加価値が高い製品として位置づけられるしかないのです。和紙は,他にはない風合いや強靱さを頼りに,美を湛える媒体として命脈を保とうとしています。詳しくは,今週から始まった連載記事をご覧下さい。

 もっとも機械で漉かれた洋紙も,情報の流通媒体としてずっと使われ続けるとは限りません。個人的には,そろそろ電子機器による置き換えが始まるのではないかと予感しています。インターネットの台頭によって,情報の発信側が紙を前提にしたビジネスモデルを描きづらくなっているからです。米国の新聞社の業績悪化が,それを象徴しています。

 今のところ,紙とネットでは情報の質が違います。ネットは,本当かウソか分からない情報であふれていますし,我々もネットより紙で発信する情報の方を重視していることは否めません。しかし,ネット上に質が高い情報が集まりつつあることも事実です。先述した和紙の記事は,技のココロという企画の一環です。この企画の発端は,紙の媒体と同等かそれ以上に読み応えがある記事を載せたいと考えたことでした。ネットならではの表現方法として,フラッシュ版も用意しています。併せてお読みいただけると幸いです。

ニュース(5月25日~29日)