NEC(日本電気)は2009年5月26日,重さが725gのビジネス向け小型ノート・パソコン「VersaPro UltraLite タイプVS」(第一報の記事)の報道機関など向け内覧会を東京都内で開催した。そこに展示されていた,ある程度まで分解した製品の写真や,説明員(複数)の言葉などを,記者の印象を交えつつ紹介する。
筐体を見たときの記者の第一印象は「やっと『Lui』がノート・パソコンになった」というものだった。Luiとは,NECが2008年4月に発売した個人向けシンクライアント・システム(関連するNEブログの記事)。その端末の一つである「PCリモーター ノートタイプ」である「RN700」と,今回の製品は非常に良く似ている。例えば外形寸法などは同一であり,基本的な筐体デザインはRN700から流用したものと言って良さそうだ。しかし,RN700はシンクライアント端末であり,単独では利用できない。今回の製品はメイン・プロセサを含む基板やSSDを搭載することで,単独で動作する小型ノート・パソコンに仕上げている。
今回の製品を実現できた主な要因は,主基板の小型化にある。マイクロプロセサは米Intel Corp.の「Atom Z540」を採用し,10層基板を用いた。同社の「VersaPro UltraLite」シリーズの従来機に搭載していた主基板に比べて,約25%小型化したという。従来機はIntel社の「Core 2 Duo」プロセサや,「Celeron 723」プロセサなどを搭載していた。メモリは1Gバイト固定とし,主基板に直接取り付けた。メモリの増設はできない。1GバイトはWindows Vistaを動作させるには少ない容量だが,「Windows XP向けということであれば,1Gバイトで納得していただけると判断した」(NECの説明員)という。
記憶装置にはHDDではなく,SSDだけを搭載する。記憶容量は,現時点では64Gバイト固定である。「ビジネス用途を想定した場合,64Gバイトで不足することはほとんどないと考えた」という。SSDはMLCを用いた東芝製のモジュールを搭載している。SSDモジュールはコネクタで主基板と接続されているため,将来的には大容量品の搭載も考えられるが「大容量品を搭載すれば,価格も高くなる。まずは64Gバイト品で市場の反応を見たい」(同)とした。基板は海外で製造したが,筐体の製造と,最終製品としての組み立ては国内で行った。筐体に利用したMg合金の薄肉ダイカスト加工は「国内でないとできない」(同)ためだという。
薄型化・軽量化に向けて割り切った点がある一方で,妥協しなかった点もあるという。例えばディスプレイ・パネルの解像度は1280×768画素,キーピッチは17mmで,すべてのかな文字キーを同じ大きさとした。いずれも「ビジネス用途では必要であるため」(同)とする。USB 2.0ポートは3個を備えた。「VGA出力がないため,プレゼンテーションなどに利用する際は,USB接続のインタフェースを外付けする必要がある。USBポートが2個しかなかったら,マウスか,ネット接続用のモバイル・アダプタのいずれかを外さなければならなくなるので,3個は必要」(同)と説明する。3個のポートは両側面と背面にあるが,背面の1個は片方の側面の近くに配置することで「2ポート分の供給電力を必要とする機器でも利用しやすいようにした」(同)。ACアダプタとLANケーブルのコネクタは主基板とケーブルで接続している。「コネクタを基板に直付けすると,抜き差しのときに基板に力がかる。長期間使っていると故障の原因となりやすいため」(同)とする。
内覧会という短い時間,処理負荷の軽い試用の範囲での印象ではあるが,発熱は大きくないと感じた。筐体のうち主基板の上あたり,すなわち裏側にカーボン・グラファイト・シートが張られているあたりが,ほんのりと温かくなる程度。「社内で試用していたとき,キーボード部分で熱を感じることはほとんどなく,腿の上に置いても熱いということはなかった」(同)という。
今回の製品はビジネス向けと位置づける。同社の直販Webサイトは法人または個人事業主に向けた販売とする。ほかに,一部の大手量販店の法人向けコーナーなどでの販売も予定しており,販売店によっては個人ユーザーが購入することも不可能ではないと見られる。ビジネス向けとした理由について「ビジネス向けにきちんと作れば,これだけのものが提供できるということを示したかった。個人向けの小型ノート・パソコンとしては,いわゆるネットブックが人気を集めている。今回の製品は,ネットブックと価格競争はできない。その意味では,ビジネス向けだから実現できた製品」(同)と語った。