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 「和紙」が絶滅の危機に瀕している。

 全国手漉き和紙連合会によれば、現在日本で和紙を漉いている家はわずか295戸。20世紀の初め、1901年には6万8562戸だったので、100年あまりで230分の1に減った計算になる。そして今なお、減少のペースは加速を続けているようだ。2001年には392戸あったから、この8年で100軒近く、割合にして全体の1/4が消えてしまった。

 総生産額もずいぶん小さくなってしまった。連合会の会長を務める成子哲郎によれば「具体的な数値は公表していないが、洋紙も含めた国内生産額のうち、0.1%とか0.3%とか、それくらいの規模」らしい。経済産業省の集計によれば、紙の国内販売総額は2007年に2兆1533億円。ここから類推すれば、高々数十億円しかない。産業とは呼びづらく、小ぶりな企業一つ分くらいの規模だ。

 しかも、その数字すら、純然たる「和紙」だけのものとは言いにくい。そもそも「和紙」の定義があいまいであることに起因する。鳥取県で和紙を製造する大因州製紙協業組合の塩宏介はこう説明する。「和紙という言葉は比較的最近できたものなんです。明治時代に海外から新種の紙が入ってきて、それを洋紙と呼んだ。それに対して、昔から日本にあった紙を和紙と呼ぶようになったんです」。洋紙の特徴は、木材から抽出したパルプを原料に、機械を使って大量につくる点にある。これに対する、古来製法の紙を和紙と呼ぶならば、明治以前と同じ材料を使い、手で漉いた紙こそが本物の和紙、ということになるのだろう。

 ところが、あまたある和紙の中でも、古来の材料、製法をそのまま踏襲してつくられる紙は皆無に近いという。手漉き和紙連合会が把握している生産規模は、自らの団体名にも関わらず、「手漉き」でつくっていないものを含む。機械で紙を漉いている場合も、その速度が一定値以下の場合は手漉きとみなしているらしい。紙を漉く場面に限らず、各工程で機械を導入する、さらには従来材料に木材パルプを混ぜるということが当たり前になっているのだ。