ディズニーのイマジニア(創造性開発者)達に課せられた「ミッキーの十戒」の内の3つ目を紹介したい。それは、「人とアイデアの流れを整理しなさい」というものである。ちなみにこの十戒は、1989年7月に米ディズニー・イマジニアリング社(当時)の副会長であったマーティン・スカラー氏による東京ディズニーランドの経営陣と運営スタッフに向けた講演の中で述べられたもの。その内容は、今でも彼らの基本指針となっている。

 その一つである今回の訓は、イマジニアにとって重要な「深堀力」を発揮する際に、何をポイントにすべきかを指し示したものといえる。原語では「Organize the flow of people and ideas」。「people and ideas」と、異質とも思える二つをandでつないでしまっているところがミソだと思う。

 異質といったが、そもそも人の流れとアイデアの流れ、つまり行動と思考は極めて密接なものである。ある人が空腹を感じながら街を歩いていたとしよう。その人がある路地に差しかかったとき、ちらりと赤い提灯が目に入る。その瞬間に「あ、あそこに食堂がありそうだ、のぞいてみよう」というアイデアが浮かび、実際に角を曲がって路地に足を向けるという行動をとる。しかし、近づいてみると「休憩中」の札。そこで立ち止まると、どこからかカレーの匂いが。「どこだろう」と見回しているうちにあることを思い出す。「あ、そういえば、この近所に前から行ってみたかったカレー屋があったな」。こうして彼は、来た道を何事もなかったかのように引き返していく。

 こうした彼の行動は、単に行動だけを見れば不可解で、非合理極まりないもののように感じる。しかし、彼がどの時点で何を見、何を聞き、そして感じ、何を思いついたか、考えたかということを合わせて分析すれば、実に合理的なものであることがわかる。つまり、行動は着想の引き金となり、さらにその着想が次に行動を起こすキッカケともなり、両者はからみ合いながら人を動かしていく。そのことをよく理解した上で顧客の行動を理解、分析すべしというのがこの訓示の意味するところなのだと私は解釈している。

 そう理解したうえで、ディズニーランドに用意されているさまざまな施設、そこで実践されているさまざまなことがらなどをながめてみると、「よく考えられているなぁ」と感心させられることが実に多い。例えば、ディズニーランドで毎晩打ち上げられる花火である。ご存じの方も多いと思うが、夏でも真冬でも、雨が降っても、強風で危険性がある場合を除いて、必ず花火を打ち上げる。それは決して「きれいだからサービスで」といったものではない。顧客の満足感を上げ、さらにはビジネス的にもよい結果が得られるよう、巧みに意図されたものなのである。