先週に引き続き,今週も最も多くのアクセス数を集めたのは,国のスパコン事業見直しに関わるコラムでした。本日公開した第3弾の記事によれば,事業仕分けの議論の場は行政刷新会議に移るとのこと。是非,今後の科学技術政策を実りある方向に進める展開を期待したいところです。

 一連の議論を端から見ていて少々心配なのが,反対派と賛成派の議論が何だかすれ違っている気がすることです。筆者の独断と偏見でエイヤっとまとめてしまうと,スパコン事業を継続すべきとする側は「世界一に挑戦する機会がなくなれば,日本の科学技術は衰退する」と主張しているようです。一方で事業中止を支持する側は,「進行中のプロジェクトを継続しても事業や技術面での実りが少ない」と言っているように聞こえます。前者が大局的な視点で発言しているのに対し,後者は今回のプロジェクトや資金提供の仕方,スパコン業界の事情といった,特定の事例を俎上に載せているようです。この溝が埋まらないまま話し合っても,いい結果に繋がるとは思えません。

 一方で,こうした視点の違いが両派の対立の元凶だとしたら,どこかに双方が歩み寄れる落としどころがあるのではないでしょうか。少なくともいずれの側も,日本の科学技術が進歩して,世界に通用する産業の礎にすべきとの思いは共通するはずですから。そのためには,スパコン開発の意義(日本はスパコン産業を育てるべきか,他の産業や技術を育成する上でスパコンの設計・製造技術は必要か)や,開発すべき技術(今後の発展性や費用対効果などからどのような技術が有望か,現在のプロジェクトはそれに即しているか),技術開発を効果的に促進できる政策は何か,といった具合に問題を分割して,反対派と賛成派に橋を渡す議論が必要でしょう。

 もちろん,実際には問題を理路整然と分けること自体難しいでしょうし,往々にして議論が平行線をたどることもありそうです。ただし今回の件に限らず,今後の日本の進路を決める上で,そうした苦労を避けては通れないでしょう。それよりも不安なのは,地に足のついた議論をする前に,論点がすり替わったり感情論に陥ったりして,話がおかしな方向に進んでしまうことです。利権が絡む案件では,自分の利益にかなうように議論を誘導する関係者がいないとも限りません。もはや日本の産業界に,そのような寄り道をしている余裕はないはずなのですが。

ニュース(11月23日~27日)