明るい話題が少なかった有機EL関連業界で,最近日本発の二つの良いニュースがあった。

 一つは,カシオ計算機と凸版印刷が有機ELディスプレイの量産化を目指し,中小型ディスプレイ事業に関して協業するというニュースである(Tech-On!関連記事1)。カシオは有機ELディスプレイの低コスト化にこだわり続けており,2004年の学会「SID」ではアモルファスSi(a-Si)TFTとインクジェット技術で形成した高分子型の有機ELディスプレイを発表している(同関連記事2)。もしこの技術をベースに量産化できれば,非常に画期的なことである。2社の英断に拍手を送るとともに,事業が成功することを願ってやまない。

 もう一つは,コニカミノルタが有機EL照明用のパイロット・ラインを建設するというニュースである(同関連記事3)。フレキシブル基板を採用し,塗布型のロール・ツー・ロール方式で量産を目指すという。技術的な難易度は高いが,もし実現できれば劇的な低コスト化が可能となる。この技術がディスプレイにも転用できれば,有機ELディスプレイの低コストも一気に加速するかもしれない。

 一方,韓国の調査会社Displaybank社によると,アクティブ・マトリクス型の有機ELディスプレイで独走態勢に入っている韓国のSamsung Mobile Display Co., Ltd.(SMD)は次のラインの検討に入っているという(同社の無料会員登録制サイトの記事)。30型のテレビを生産するために,5.5世代(1320mm×1500mm)と呼ぶサイズのガラス基板を使用する。基板サイズを拡大しながら生産性を上げ,低コスト化に対するボトル・ネックとなっている有機EL材料の価格を量産効果によって押し下げていくというのは,まさにSamsungらしい横綱相撲である。

 しかし,その時に採用される技術がもし従来技術の延長上にあるのなら,基板サイズを1世代上げたぐらいでは,コスト面でまだ液晶ディスプレイとまともに戦うことはできないだろう。10月の学会「IMID」での発表を見る限り,TFT基板技術は「SGS(Super Grain Silicon)」TFTも酸化物TFT(図1)も着実な進歩を遂げていると感じたが,「LITI(Laser Induced Thermal Imaging)」などの有機EL素子製造技術については大画面化への道のりはまだまだ険しいように思えた(Tech-On!関連記事4)。

図1 SMDが試作した酸化物TFT駆動19型フルHD有機ELディスプレイ
「FPD International 2009」にて著者が撮影。
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