日経エレクトロニクスでは米Apple Inc.が2009年10月下旬に発売したタッチ・センサ内蔵マウス「Magic Mouse」を,分解調査した。Magic Mouseは筐体の上面に組み込んだタッチ・センサで指の動きを検知し,ボタンやスクロール・ホイールを排したり,iPhoneなどで使われる「ジェスチャ操作」に対応したりしている。
いよいよMagic Mouseの分解を始める。まず,底面のカバーを外して電池を取り出す。ネジらしきもはどこにも見あたらない。どうやら,はめ合わせなどを多用しているらしいと見当を付け,まず底面に2本並行に取り付けられた黒い樹脂部品を取り外す。この樹脂部品は,マウスの“脚”にあたる部品で滑りやすい素材で作られており,比較的柔らかいため取り外しの段階でかなり変形してしまった。この時点で,分解後の現状復帰はほぼ不可能になった。
次にAl合金製の下カバーを樹脂製の筐体下部フレームから引きはがす。これは強力な両面テープで取り付けられていた。マイナス・ドライバをすき間にねじ込み,強引にこじ開ける。ほとんど力任せの作業になった。
ここまで来るとようやく,Magic Mouseの機械的な構造が分かる。電池ボックスを兼ね,回路基板が取り付けられた樹脂製の下フレームと,タッチ・センサが組み込まれた上フレームに分かれており,ヒンジでつながれているようだ。わずかなすき間からのぞき込んで,ヒンジ部分を探し,マイナス・ドライバでひねって取り外すと,上下のフレームをなんとか分離することができた。
フレキシブル基板(FPC)で作られた,タッチ・センサを形成する電極シートを,回路基板をつなぐコネクタから抜くと,上下のフレームが分離できた。コネクタは差し込み口と反対側のプレートを上げると,ロックが解除される機構を組み込んだ「バックロック」と呼ばれる方式だった。さらに念には念を入れ,回路基板とFPCの間に両面テープを貼って固定してある。ロック機構のプレートをよく見ると「DDK」の刻印があり,国内コネクタ・メーカーの第一電子工業の製品と思われる。
これを見た技術者は,「一般的なフロントロック式のコネクタでFPCを上に引き上げる力が加わると,ロックが外れてケーブルがFPCが抜けやすい。Magic Mouseの構造を見ると,組み立て時にこうした力が掛かる可能性があり,これを嫌ったのではないか」とコメントする。別の技術者は,Magic MouseのFPC接続部には余裕が少ないため,確実に組み立てるにはかなりの技能が必要ではないかと推測する。バックロック式はフロントロック式に比べると,FPCを差し込む作業がやや難しくなる。「作業者に負担を掛ける設計。Apple社の協力工場には質の良い作業者が揃っているのだろう」(技術者)。
Magic Mouseの上側の部品は,ポリカーボネート製と思われる白色樹脂の筐体上カバーに黒い樹脂製のフレームが張り付けられている・タッチ・センサの電極シートはその間に位置する。ここでも固定は両面テープである。センサの電極を傷つけないように,慎重に工具を差し込み,黒い樹脂フレームを徐々に剥がしていく。
【Magic Mouse分解 第1回】
【Magic Mouse分解 第2回】
―― 次回へ続く ――
《訂正》読者からの指摘で,コネクタの仕様に関して一部事実誤認が判明しました。当初はコネクタにロック機構がないと記しておりましたが,実際にはロック機構がありました。それに伴い,推測に基づくコメントを削除し,表現を修正しました。本文は既に修正済みです。
【お知らせ】この分解調査の詳細は日経エレクトロニクス 2009年11月16日号 NEレポート「Apple 社のMagic Mouseを分解,特殊なセンサで感度向上か」に掲載しています。