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技術経営戦略考

こだわりの死角

  • 川口盛之助=アーサー・D・リトル プリンシパル
  • 2009/11/18 16:00
  • 1/5ページ

 日本の道具観を語る時に、箸と着物がよく取り上げられます。箸はフォークやナイフなど洋食器との比較で、着物はシャツやパンツなど洋装と比べて考えると、その独特な設計思想がみてとれるというわけです。今回はこの両者に込められた日本風なモノづくり観、モノとの付き合い方について語りたいと思います。

(1)習熟と拡張性

 箸を使いこなせるようになるには長い練習期間を要します。しかし一度覚えてしまうと大変に便利な道具になります。この習熟とはありがたいもので、一旦会得すれば身体が覚えてしまって二度と忘れません。自転車やスキーと同じですね。コツというやつは、何十年ぶりに使ってもいきなり思い出すことができます。

 入門に努力を要する代わりに、習ってしまえば汎用性が高いという恩恵を得ることができるわけです。摘む、切る、ほぐす、刺すなどフォークやナイフの仕事の大半を箸ひとつでこなすことができます。全体をシステムとして理解した上で、細かい小タスクにそれぞれ最適なツールをあてがう、というシステム思考な西洋風と、逆に全体をゆるゆる受ける東洋的な捉え方の違いが現れている、などと説明されてきました。

 単機能のテレビや電卓と、汎用性の高いPCとの違いみたいなものです。箸の場合は、肉体作業に用いる道具なので、掃除機や洗濯機などの単機能家電品と、召使いみたいに何でもこなす汎用機能の違いと言った方が正確でしょうか。前者が頭脳タスクの事例で、後者は肉体タスクの例ですが、道具がどれくらいの範囲まで人の作業を代替してくれるのかは、技術の進歩と連動しています。

 掃除も洗濯も皿洗いも1台でこなすロボをこしらえるのは大変なこと。ASIMOがそんな便利な汎用機になるにはかなりの努力が要りそうです。一方、IT技術の目覚しい発達によって、頭脳タスクの方はどんどん肩代わりする幅を広げています。箸とそっくりなスティック状の道具で、知的作業の支援を担う道具に「筆」があります。箸同様に、字が書けるまでに時間を要しますが、筆圧の加減で線のタッチを微妙に使い分けられるようになり、絵画も如意に描けます。筆とは文字と絵を同時に描くことができる珍しい筆記具なのです。

 キーボードやドローイングソフトが着々と筆の仕事を取り込みつつあり、既に「指の召使い」はかなり高度に実現しつつあります。しかし、キーボードという道具を扱うにもまた習熟は発生し、慣れてくると見ないで打てるタッチキー操作が自在になります。どんなにインタフェースを発展させても、高度な冗長性を持った人間様は使いこなすための残り代を探し出すのかもしれません。

 何気なく使っている箸ですが、まったくないところから「箸」を発明することは大変難しいことでしょう。食事の作業を人間工学的に分解していけば、スプーンやナイフを発案することはできそうな気がしますが、2本の棒からなる箸を思いつくのは大変そうです。まさか人類にそんなものを器用に使いこなす能力があるとは思いも寄らぬことだからです。

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