そこで納得したのは,スマートグリッドを推進する米国の事情です。米JAFCO Venturesの菅谷 常三郎氏によれば,米国の送電インフラは老朽化が進んでおり,いずれにしろ刷新しなければならない。だったら,将来の発展につながる仕組みを入れてしまえというわけです。同氏も指摘するように,現状の送電インフラは日本の方が格段に進んでいます。ただし米国のことですから,うかうかしていると一気に追い越していきそうです。確かにそうなっても不思議はありません。日本には,米国ほど差し迫った必要性がないからです。実際,日経エレクトロニクスのスマートグリッド解説によれば,「日本にスマートグリッドは不要」という意見も根強いとか。
ここに落とし穴がありそうです。米国が狙っているのは,インフラの整備の後に広がる新しい産業と見られます。だからこそ,Microsoft社や,Google社,Cisco社といった企業が,協力を惜しまないわけです。既に米国のベンチャー投資家の意識も,スマートグリッドから集まるデータを活用する企業などに移っているとのこと。一方で,日本のインフラは,そういう将来を想定したものではないでしょう。今は優れているかもしれませんが,それに甘んじていると足をすくわれかねません。何だか,固定電話網が発達していない国の方が,携帯電話網が一気に広まる話と似ています。既存の仕組みが優れているほど,次の仕組みへの対応が遅れる――「イノベーションのジレンマ」をもじって,「先進国のジレンマ」とでも呼べそうです。
こうした状況は,一企業ではなかなか打破できません。こういうときこそ,国の出番でしょう。ただし,「国が率先してスマートグリッド網の整備に乗り出す」というのは,ちょっと違う気がします。国のお墨付きで開発を進めた企業が,世界市場で必ずしも成功しないのは,これまでの歴史から明らかです。それよりも,市場の拡大や技術の革新を目指す企業が切磋琢磨できる土俵を用意するのが,政府の仕事ではないでしょうか。冒頭の講演会では,米ニューメキシコ州が進める「Green Grid」実験を説明したThomas Bowles氏の言葉が印象に残りました。「政府がスマートグリッドを作るわけではない。民間企業やベンチャー・キャピタルの仕事だ。だから,ビジネスモデルは何か,経済的に成り立つのかといった検討が重要になる」。
ニュース(10月26日~30日)
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