講演の様子。
講演の様子。
[画像のクリックで拡大表示]

 「Green Device 2009フォーラム」の開催二日目,基調セッションの口火を切ったのは,ニューメキシコ州知事のScience Advisorを務める,米Los Alamos National LaboratoryのThomas Bowles氏である。「グリーン・グリッド――米ニューメキシコから日本へのメッセージ」と題して,同州の取り組みや新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との協力について講演した。400名を収容できる会場は,立ち見の受講者も出る盛況ぶりで,スマートグリッドに対する関心の高さをうかがわせた。

 最初にBowles氏は,これまで別々だった電力のインフラと情報ネットワークが融合するものとして,スマートグリッドを位置付けた。今後,日本や米国で太陽光や風力といった再生可能なエネルギーの利用比率が高まると,スマートグリッドがより重要になるとした。同氏は将来の電力網に必要な要素を四つに分類し,その第一として再生可能なエネルギー源の統合を挙げた。続く三つは,エネルギーの貯蔵(Energy Storage ),負荷の調整(Load Management),ネット上および現実世界での安全性(Cyber Security and Physical Security)である。同氏は風力発電の実例を挙げて,再生可能なエネルギー源は天候によって発電量が急変する上,発電量の変化が電力の需要動向と一致しないと説明。両者の乖離を埋めるために,各種の蓄電技術が必要とした。ただし,現在を多少上回る程度の電気料金を実現できるほどに,コストを下げなければ実利用は難しいとした。

 次に,負荷の調整が重要になる背景として,現在の発電所は需要のピーク時に合わせて設計されており,無駄が多いことを指摘。スマートグリッドの技術と電力料金を動的に変える方法を組み合わせれば,ピーク時の電力需要を20%程度削減できるとした。特に,家庭で使っている電力の情報を,消費者に知らせることが大事とした。安全性については,インターネットでも悪意のあるハッカーによる攻撃は多いが,その被害はデータの流出などにとどまると指摘。ところがスマートグリッドでは,人命に関わる結果を引き起こす可能性がある上,一般の家庭なども攻撃の対象になりうるため,大規模な安全性の確保が重要になるとした。これらを満たすスマートグリッドを全米で構築するには,5000億~1兆5000億米ドルが必要で,再生可能エネルギー源の整備にも同等の額を要するという。

 講演の後半は,ニューメキシコ州での実証実験「Green Grid」の概要を解説した。米国政府や米Intel社といった企業から調達した資金に,再生可能エネルギー源に対する7300万米ドルをあわせて,総額1億9200万ドルのプロジェクトになるという。「これは一時的な実験ではなく,全米初の完全なスマートグリッドをつくりあげるという,より包括的な計画の一部です」(Bowles氏)。ニューメキシコは太陽光発電や風力発電に適した風土の上,人口が200万人と中規模で,必要な人材やコンピュータ設備も整っているため,スマートグリッドの実現に向くという。

 州内の五カ所で実証実験を進め,必要な技術だけでなく,ビジネスモデルや,地域に及ぼす影響など様々な側面を検討する。NEDOが参加するのは,ロスアラモスとアルバカーキの二カ所の実験という。シミュレーションや,住宅や商業施設を対象にした大規模な実験を通じて,太陽電池を利用した分散発電の課題や,安全性の問題などに取り組む。

 NEDOが実験に加わった理由は,日本の規制の下ではできない実験をすること,国際的な規格作りに貢献することに加え,米国市場への足がかりを得ることとした。「我々はデモには興味ありません。ニューメキシコをエネルギーの専門家の拠点,スマートグリッドやクリーン・エネルギー・システム作りの中心地にしたいんです。我々は米国市場への入り口を提供できます。日本企業が来てくれれば,雇用を確保できる。一方で日本企業は,数千億米ドル規模の市場に参入できるのです」(Bowles氏)。