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【チャイナリスクに勝つ】 第8回---不良社員の変身

近岡 裕=日経ものづくり
2005/06/01 17:26
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図7●反日デモを呼びかけるチェーンメール ある日系メーカーの中国現地工場で流れた。写真はプリントアウトしたもので,デモに参加する際の持ち物や活動中のシュプレヒコールの言葉,行進の経路などが記されている。
図7●反日デモを呼びかけるチェーンメール ある日系メーカーの中国現地工場で流れた。写真はプリントアウトしたもので,デモに参加する際の持ち物や活動中のシュプレヒコールの言葉,行進の経路などが記されている。
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 目線を合わせ,自分の考えを分かりやすく伝える。日本人の管理者が中国人の従業員とこうしたコミュニケーションを取っていけば,たとえ“不良社員”でも戦力の一員へと変えることができると遠藤氏は指摘する。実際に,同氏は次のようなことを経験した。

コミュニケーション次第で“不良社員”も優秀に

 かつてある中国現地工場で,遠藤氏は品質保証部門の部長として働いていた。あるとき,製造部門から「目つきが悪く,ずっと不満を口にして働かない作業員がいる。クビにしたいけれどできないから,品質保証部門で引き取ってくれないか」と打診があった。遠藤氏は「いいですよ」と返事をして,その作業員を受け入れた。

 その作業員に会うと,遠藤氏はまず「君がこの工場に来た目的は何かな」と尋ねた。すると「自分の価値を高めて,賃金をたくさんもらいたい」とその作業員は答えた。そこで遠藤氏は「自分の価値を上げるためにはどうしたらいいかな」と聞く。「勉強する」と作業員。「勉強してもそれが認められなければ,昇進できず賃金は上がらないよね。どうしたら認めてもらえるかな」と遠藤氏は問い掛ける。「分からない」という作業員に対し,遠藤氏は「秘訣があるんだ。まずはあいさつから始めてみようか。笑顔でおはようございますと言ってみたらどうかな」とアドバイスした。作業員が従うと,遠藤氏は「ほら,相手に良い印象が与えられるよね。こうした積み重ねが評価につながっていくとは思わないかい」と語り掛けた。

 遠藤氏のこうした接し方が,“不良社員”のレッテルを張られていたこの作業員をガラリと変えた。残業時間を使ってコンピュータの勉強をしたり,秘書検定の教科書を読んで気配りを学んだりするなど,その作業員は自主的に学び始め,優秀な作業員へと成長していったという。

 「不良社員が過激な行動に出るリスクがある」と既述したが,日本人の管理者の対応次第で,そうしたリスクを低減できるだけでなく,問題がある社員でも貴重な戦力に変えられるという好例だ。
 

国籍ではなく実力による人材配置を


 現場のコミュニケーション以外にも,生産停止に陥るリスクを緩和するための方法を,ニッポーマグネスは採っている。それは,能力に応じて役職を決めることだ。

 小池氏によれば,通常,日系メーカーの中国法人の総経理(社長)には日本人が就任する。ところが,ニッポーマグネスの現地法人である日邦磁材(江門)有限公司の総経理には中国人が就いている。日本人は出張で日邦磁材(江門)有限公司に行くが,常駐はしていない。これは「能力によって適材適所で人を配置した結果。当社では国籍による人材の配置はしない。重要な役職を日本人で固めるようなことをすれば,中国人の従業員のモチベーションが上がりにくいし,従業員の中に会社に対する反発姿勢も芽生えやすくなる」と同氏は説明する。日本人も中国人も分け隔てなく,出世の機会を与えておくことが,結局は会社の競争力を高めるとニッポーマグネスは考えているのだ。

 遠藤氏はインターネットによる「チェーンメール」の管理も,中国現地工場では必要だと訴える。今回の反日デモでは,一般の中国国民だけでなく,日系メーカーの現地工場の作業員の間にも反日デモを呼びかけるチェーンメールが流れた(図7,別掲記事4「反日デモを呼びかけるチェーンメール」)。仕事以外のインターネットやメールの使用を禁じなければ,反日デモやストのリスクが高まることはもちろん,仕事の効率が落ちる。会社の重要な情報が外部に流出する可能性もある。外部から“デマ”などの危険な情報が入ってきて,作業員が影響を受けるかもしれない。「インターネットやチェーンメールの影響は決して小さくないことを日系メーカーは認識し,使用状況をきちんと管理すべきだ」(遠藤氏)。(次回に続く

反日デモを呼びかけるチェーンメール

 本文の図7に示したメールは,2005年4月16日に発生した上海における反日デモの参加を呼びかけたメール。ある日系メーカーの中国現地工場の従業員の間を駆けめぐったものだ。就業時間中にチェーンメールが職場内を飛び交えば仕事の効率が落ちるし,危険な情報が社内に蔓延する恐れもある。自社の貴重な情報が外部に漏れる危険性もあるため,日系メーカーは中国現地工場の従業員のパソコンの使用状況を管理した方がよい。

 日系メーカーの現地工場で働く中国人の作業員に対して反日デモへの参加を訴えるこのメールには以下のような既述が見られる。

  「大使館の門に到達したときに,石や金属など堅いものを投げてはいけません。アドバイスとしては,トマトや卵のほか,小泉(純一郎首相)の顔の写真,ライター,日本の国旗を持って行くと良いでしょう」

  「叫ぶ言葉や標語としては,次のようなものを参考にして下さい。『日本製品反対!』『日本の歴史教科書に対して抗議する』『日本製品反対,中国製品賛成』『日本の常任理事国入り反対』『日本の常任理事国入りに反対。日本製品を拒絶せよ。釣魚島を返せ。日本の歴史教科書反対!』」

  「この活動方針は,中国人と一緒にいる日本人の友達に対して行うものではありません。これは日本の右翼勢力とその支持者に対して行うものです。この活動の間は日本人の友達に対する過激な行動はやめて下さい」

  「警察は人民の公僕なのですから,デモ行進中は彼らも我々と同じ愛国者の1人です。しかし,彼らには彼らの任務があります──安全の保障ということです──みなさんは警察のおじさんたちと協力して下さい。特に大使館の門の場所では,もしも警察があなたのことを見ていたら,ものなどを投げてはいけません。もしも誰もあなたを見ていない時には,卵を1個投げるか,トマトを1個投げて下さい。もしも投げたところを警察のおじさんに見られたら,彼らに対して笑顔を見せて下さい」

  「沿道にある日本人が投資した商店や会社があったとしても,それらを壊したりしないで下さい。なぜなら,それらを壊したら日本人が中国政府に対して賠償を求めます。だから,みなさんは頭を働かせて下さい」

  「日本の国旗や小泉の写真を燃やすときには,安全に注意して下さい」

  「あなたが国を愛していて,土曜日に時間があればここに来て活動に参加して下さい。たぶん,あなたの力は小さいけれど,千万人の(たくさんの)人が集まれば我々の影響力はとても強大なものとなります。上海の活動が広州や北京の活動と同じように成功することを願っています。日本政府の人間に対して圧力をかけ,中国側の形勢をよくする手助けとなります。抗日の道は非常に長い。しかし,我々中国人は協力して勝利を勝ち取りましょう」

 興味深いのは,まずこのメールの文章には比較的暴力性が薄いこと。実際には,この上海での反日デモにより,日本大使館や日系スーパーなどに石やコンクリート片など堅いものが投げ込まれ,建物の一部が破壊されたが,メールではそうした行為を禁じている。デモの対象は「日本の右翼勢力とその支持者」や日本を代表する「小泉純一郎首相」であり,日本人全体に向けられてはいないこと。「日本人の友達に対する過激な行動はやめて下さい」という文言からそのことが分かる。

 ただし,このデモの参加に応じた作業員が,自らは日系メーカーの現地工場に雇われている一方で,日本製品のボイコットを叫ぶことに矛盾も透けて見える。日本製品を排斥した結果として,現地工場の経営が傾けば,解雇される可能性が生じて自らの首を絞めることにもなりかねない。日本企業に勤めるある中国人の社員は「たとえその可能性があったとしても,デモに参加した中国国民は日本企業の販売に影響を与えることで,日本政府に対して強い抗議の姿勢を示したかったのだ」と,デモ参加者の気持ちを代弁する。

    連載の目次
  1. 怯える日本企業
  2. 狙われた現地工場
  3. 理不尽な理由
  4. 貧富と腐敗
  5. 壊滅するメーカー
  6. 意志疎通の力
  7. 正面を切る対峙
  8. 不良社員の変身
  9. 中国依存からの脱却
  10. 持続的成長への布石
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