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HOMEスキルアップマネジメント > 【チャイナリスクに勝つ】 第6回---意志疎通の力

【チャイナリスクに勝つ】 第6回---意志疎通の力

  • 近岡 裕=日経ものづくり
  • 2005/05/30 17:15
  • 1/1ページ

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 では,生産停止につながるような反日デモやストが起きにくい中国現地工場をどのように築けばよいのか──。遠藤健治氏は「現場で従業員とのコミュニケーションをうまく取り,良好な人間関係を築くことに尽きる」という。当然の指摘のように映るが,日中間には先に述べたような複雑な事情があり,日本人が中国人の従業員と上手にコミュニケーションを取るためには,押さえるべきポイントがある。

反日デモやストに強い現場の条件

 まずは,従業員と「同じ目線で話すこと」を心掛けることが必要だ。ところが,日本人の管理者にとってはこれが意外に難しいようである。その理由を遠藤氏はこう説明する。「日本人が中国現地法人に異動すると,日本よりも肩書きが上がることが多い。例えば,日本では係長クラスで部下が2~3人しかいなかったのに,中国では課長クラスの肩書きを得て,いきなり30~40人の部下を率いたりすることがある。こうした場合,この人物は自分が『偉くなった』と“勘違い”をし,中国人の従業員に対して尊大な態度を取りがちだ」。

 磁石メーカーであり磁石の商社でもあるニッポーマグネス取締役営業本部長の小池博之氏も同様の指摘をする。「日本で係長や課長だった人が,中国に赴任するといきなり1000人ぐらいの部下を持つ部長に就任することもある。中国人の部下は何でも言うことを聞いてくれるし,かつてない気分を味わって,まるで“支配者”のように振る舞う日本人は少なくない」。

 こうした尊大な態度を示す日本人の管理者を,中国人の従業員は苦々しく見ている。ニッポーマグネスで働く中国人の女性スタッフは,他社を含めて一般の話として中国現地工場で働く従業員がよく口にする不満の中身を解説してくれた。「会社でしかるべき地位にいる人には,その地位にふさわしい仕事をこなす能力が必要。どう考えても,知識や能力において中国人の方が上回っているのに,日本人だからというだけで能力が低くても地位が高いというのは,お話にならない。中国人の従業員は上司である日本人の管理者を内心で見下す。こうした状態で,日本人の管理者と中国人の従業員との間に良好な人間関係など築けるはずがない」。

 台湾のギア付きモータメーカーである北譯精機(台湾PEI-EI Machinery社)支店長を務める台湾人の葵秀子氏も,現地工場で威張る日本人の管理者が一般に存在することを指摘する。「中国現地工場の従業員からしばしば不満として上がってくるのが,日本人の管理者の態度が大きすぎるということ。日本には『郷に入らば郷に従え』という諺があるが,日本人の管理者は勝手気ままで傲慢だと中国人の従業員が感じている場合が多いことは事実だ。現地の文化や習慣を踏まえずに,自分の考えを一方的に押し付けて『これはダメだ。こうするんだ』と頭ごなしに言う日本人の管理者が目に付く。中国人は勉強熱心で,教えると吸収力が高い。しかし,日本人の管理者が強制する態度には反感を持つだけ」。

目的まで話して作業員を納得させる

 「現場のコミュニケーションをうまく取っていれば,少なくとも大掛かりな反日デモやストは中国現地工場では起きないはず」と言うニッポーマグネスの小池氏は,実際に自ら中国人の従業員とのコミュニケーションに関して細心の注意を払っている。

 ニッポーマグネスは,磁石の商社である日邦産業が,フェライト磁石メーカーだった理研フェライトを買収して1998年に設立した。小池氏は理研フェライトで技術者として勤務した経験を持ち,「製造も品質管理も生産管理も,磁石の生産の全工程を担当した」(同氏)。今の肩書きは営業本部長だが,実際には技術者としての仕事も続けている。同社は中国の江門に,ボンド磁石を製造する現地法人「日邦磁材(江門)有限公司」を持っていて,小池氏は頻繁に同社の現地工場に足を運んでいるという。「自分が抱えている重要な案件や重要事項は,現地工場で直接自分が指導する必要がある」と同氏は考えるからだ。

 小池氏によれば,通常,日本人の管理者は中国側とは総経理(社長)や副総経理(副社長)といった経営層だけと接する。特別なことがあったとしても,話し合いの機会を持つのはせいぜい各部門長止まりだ。こうした状況を,同氏は「それでは現場の実態が分からない」と一蹴する。「当社では工場の現場で中国人の従業員と直接やり取りする。最低でも製造ライン長クラスまで降りていって話をするし,作業員と直に接することもしばしば。現場のことを最もよく知っている作業員と話し合うと,より実効性のある解決策や改善策が生まれることが多いからだ」(同氏)。

 作業員と接する上で,小池氏が気を配っていることは「噛んで含めるように伝えること」だ。つまり,説明を尽くして作業をしてもらうことである。例えば,「セキュリティーセンサ」に組み込む磁石を造っていて,磁力が足りないという課題があったとする。そこで解決策として,ある作業を追加する必要がある場合,「単に『これをやってくれ』と作業員に言うだけでは,その作業は長続きしない。当初は対応しても,次第に作業員は勝手にその作業を省くようになる」(同氏)。これを防ぐために,小池氏はセキュリティーセンサそのものから丁寧に説明をしていく。

「日本には防犯装置としてこうしたものがある。中国にも泥棒はいるよね? 磁石の磁力がないとこの装置は反応しなくて,大切なものが盗まれてしまうかもしれない。自分の家にこの防犯装置を付けていたのに,磁力不足で泥棒に反応しなかったら嫌だよね? だから磁力を高めるために,こうした作業を追加してほしいんだ」。

 ポイントは,「できる限り,作業員自身が実体験として理解できるような説明を心掛けること」(小池氏)。そうすれば作業をしていて新たに課題が発生した場合でも,作業員はそれをきちんと上司に報告してくれるようになる。「自分が理解できない,理解していないときには,作業員はそうした課題に気付かずに無視してしまう」(同氏)。

 ただし,こうした説明も根気強く続けることが必要だと小池氏は加える。「一度や二度では作業員はきちんと対応してくれない。何度も何度も説明を繰り返して,ようやく30%程度を実行してくれると考えた方がよい」(同氏)。(次回に続く

    連載の目次
  1. 怯える日本企業
  2. 狙われた現地工場
  3. 理不尽な理由
  4. 貧富と腐敗
  5. 壊滅するメーカー
  6. 意志疎通の力
  7. 正面を切る対峙
  8. 不良社員の変身
  9. 中国依存からの脱却
  10. 持続的成長への布石
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