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【チャイナリスクに勝つ】 第7回---正面を切る対峙

近岡 裕=日経ものづくり
2005/05/31 17:15
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 ニッポーマグネスの小池博之氏が,中国人の作業員に対して説明を尽くすのは,彼らの理解度や納得度を高めることが,製品の競争力につながると考えるからだ。ただ,同氏は日本を拠点に仕事をしているため,日本から指示を出すことも多い。ところが,日本と中国では物事の解釈の仕方が異なることがしばしばある。小池氏もかつて,現地工場にうまく指示を伝えられなくて困った経験があったという。

文書のひな形を造って伝達のミスを防ぐ

 それを解決するために,同氏は伝達方法を工夫していった。まず,日本と中国現地工場とで統一されていない用語を調べ,それに番号を付けた。商品名も名前で呼ばずに,例えば「A社向けセキュリティーセンサ用磁石」に「3」といった番号を付ける。そして,日本人の管理者から中国人の従業員に対し「『3』を500個,今週中に造ってください」といった指示を出すというのだ。そのために,同社は用語と番号の対応表を作成して管理しているという。

 個人個人の細かい表現の違いも,日本人と中国人の作業員との間のやり取りでは障壁になり得る。そのため,日本人の管理者と直接やり取りする中国人の担当者を固定し,何度も直接会って話す機会を持つことで意思の疎通を図るようにも務めている。

 仕事上の文書では,フォーマットを整えた。例えば「試作請求書」では,「仕様」「目的」「要求事項」「要求データ」「注意点」…と各項目を順番に並べ,内容を箇条書きしていく。これらの項目の順番は常に決まっており,その文書を読む中国人の従業員が理解しやすいように配慮されている。

 それでも,どうしてもうまく伝達できない場合もある。そのために同社では,東京で中国人の女性スタッフを日本人の管理者のアシスタントとして雇い,彼女たちを介して現地工場の中国人の従業員と細かいコミュニケーションを取っているという。こうした数々の工夫により,「今ではコミュニケーション上の問題はほとんどなくなった」と小池氏は語る。

逃げず,こびず,堂々と話し合う

 日中両国がなかなか友好な関係を築けないのは,詰まるところ,過去の歴史問題や政治上の問題が未解決なまま,両国民の間に流れているからだ。製造業に従事する日本人の中には,こうした問題は「ものづくりの現場とは無関係」と感じている人も少なくないだろう。だが,「大いに関係する」と反論するのが遠藤氏だ。「歴史問題や靖国神社の問題といった話題は,現場の良好な人間関係を構築する上で格好の材料となる。こうした重い話題でも避けずに話し合えば,日本人の管理者と中国人の従業員とがお互いに理解を深めることができる。行く行くはそれが,製品のQCD(品質・コスト・納期)の向上につながり,反日デモやストの防止にもつながっていく」(同氏)。

 日本人の管理者の中には,歴史問題を口にすることをタブー視する人がいるが,遠藤氏は「自分の考えを堂々と言えばよい」と考える。例えば,中国人の作業員から「日本の戦争責任についてどう思うか」と聞かれた時,遠藤氏はこう答えたという。「確かに,当時の日本は中国に対してひどいことをしたと学校の歴史で学んだけれど,自分は悪いことはしていない」。ここですかさず作業員は「無責任ではないか」と突っ込んできた。そこで遠藤氏は「自分のおじいさんの時代に日本がしたことを,私に責任を取れと言うのか」と返したという。すると,その作業員は「確かに,遠藤さんは悪くないけど…。じゃあ,あの戦争に対する遠藤さん個人の考えを聞かせてよ」と遠藤氏に聞いてきて,その後は同氏に対して何でも心を開いて話すようになったという。

 実は,中国や中国国民は,日本の国や日本を代表する政治家などに対して戦争の責任を求めるが,現在の日本人の1人ひとりにその責任を負わせようとは思っていないという。「日本人の中には,中国人と話すのが怖いという人もいる。言い過ぎたりすれば,何か仕返しされるのではないかと不安になるというのだ。だが,言いたいことを言って喧嘩したってどうってことない。言い過ぎたと思えば,後で謝ったらよい。自分の考えや態度をはっきりさせることは,相手に対して悪いことではない。意見が異なるなら,お互いに討論すればよい」(遠藤氏)。

 中国人の従業員からすると「日本人は人間関係を壊さないようにとニコニコしながら話をするが,『YES』と思えるような態度を取りながら,実は『NO』だということも少なくない。そうした曖昧な態度では,つき合いにくいし,信用できない」という意見があるようだ。こうした意見からも,日本人の管理者が自分の考えをきちんと伝えることが,いかに大切なことかが分かるだろう。

 中国人の従業員から「もしも,あなたが日本の総理大臣で,中国と台湾の関係に対して胡錦濤総書記から見解を求められたらどう答えるか」と聞かれたらどうするか。ここで「それは中国と台湾の問題であって,日本がしゃしゃり出る話ではない。お互いに話をして解決したらよいと思う」と回答するとしよう。日本人にとって一見“優等生的”なこうした回答は「中国人からも台湾人からもバカにされる。自分の意見も言えないのかと思われるからだ」と遠藤氏は言う。(次回に続く

    連載の目次
  1. 怯える日本企業
  2. 狙われた現地工場
  3. 理不尽な理由
  4. 貧富と腐敗
  5. 壊滅するメーカー
  6. 意志疎通の力
  7. 正面を切る対峙
  8. 不良社員の変身
  9. 中国依存からの脱却
  10. 持続的成長への布石
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