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【チャイナリスクに勝つ】 第3回---理不尽な理由

近岡 裕=日経ものづくり
2005/05/25 17:48
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図6●ユニデンの中国現地工場「友利電電子(シンセン)有限公司」 コードレス電話機や無線通信機器などを組み立てる。2005年4月18日に,約1万6000人の中国人の従業員がストを起こした。工場は3日間連続の操業停止に陥った。
図6●ユニデンの中国現地工場「友利電電子(シンセン)有限公司」 コードレス電話機や無線通信機器などを組み立てる。2005年4月18日に,約1万6000人の中国人の従業員がストを起こした。工場は3日間連続の操業停止に陥った。
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 ユニデンの現地工場である「友利電電子(シンセン)有限公司」は,コードレス電話機や無線通信機器などを組み立てている(図6)。4月18日に起きたストは,ここに勤める約1万7000人の従業員のうち,95%近くの約1万6000人が参加するという大規模なものとなった。中国の各都市で起きた反日デモに誘発されるかのように発生したストで,4月18日~20日まで3日間連続でユニデンの現地工場は操業停止に陥った。

3日間連続の操業停止の“遠因”

 ユニデンの現地工場の場合,この大規模なストが起きた直接の理由は見つからないという。「ストが起きたので,ユニデンでは労働条件が悪いのではないか,賃金が低いのではないかと思われがちだが,実際には労働条件も賃金も他の日系メーカーと比べて遜色はない。むしろ,賃金などは平均よりも高いほどだ」と同社は首をかしげる。そのため,「一連の反日デモの動きに,一部の労働者が反応してこうしたストつながったのではないか」と同社は推測している。

 ただ,ユニデンは次のような“遠因”が考えられるともいう。実は,この現地工場で,2004年12月に会社と従業員との間で労働争議が起きていた。待遇や福利厚生などに不満を持った一部の従業員が現地工場をロックアップしたのだ。彼らは門扉を閉めて現地工場を封鎖し,従業員の誰も生産ラインに入れないようにした。当然,現地工場の生産ラインはストップ。結局,2日間連続で現地工場は操業停止となった。

 従業員側の代表は,待遇や福利厚生の改善など23項目の要求事項を会社側に提出。会社側は従業員側の代表と団体交渉を行い,合意に達してロックアップは解除された。そして団交で決まった事項は,段階を追って改善することを会社側は従業員の代表に伝えていた。

従業員側の要求事項が,従業員の不満のもとになる皮肉

 ところが,この団交において従業員側は“一枚岩”ではなかった。会社側と団交した従業員の代表は,実は従業員から選ばれたわけではなく,労使問題について強い意識を持った一部の“有志”だったからだ。そのため,会社側に突き付けた要求事項も従業員の総意を得たものではなかった。その上,団交に関する内容も「従業員の1人ひとりにまで十分に行き渡っていなかった」(同社)。

 こうした背景から,会社側が約束した改善について実行を疑問視する従業員がいたようだ。さらに,要求事項に対する従業員の考え方にもバラつきがあった。まず,賃金への不満だ。団交前には,本人が望めば望むだけ仕事ができ,その労働時間に応じた賃金を従業員は得ていた。だが,団交後は法令の規定に厳密に従うことが決まり,会社側は従業員の超過勤務について厳しく制限することになった。ところが,中国の内陸部の農村地帯から出稼ぎでシンセンの現地工場にやってきた多くの従業員にとっては,法令の規定よりも,とにかく手にする収入の多さの方が現実には重要だったのだ。そのため,団交後に収入が減ったことに不満を持つ従業員が少なくなかった。

 加えて,採用に関する従業員の不満もあったようだ。団交前は,既に働いている従業員が連れてきた同郷の知り合いや友人,親類といった人たちを会社はしばしば雇っていた。ところが,従業員側の代表は,そうした「不透明な採用」の廃止を要求。その結果,団交後には,読み書き能力の確認や,これまでの作業経験などについて会社はきちんと審査するようになった。ところが,これにより,従業員が連れてくる人間の採用率が低下してしまう。「こうしたストレスが一部の作業員にたまっていて,ストに関して発火しやすい空気が現地工場に蔓延していたのではないか」と同社は分析する。

 今回のストに関し,ユニデンは地元政府関係者にも調停の手助けをしてもらった。そして,12月の労働争議の時と同じく,従業員側に代表者を立てて交渉に入った。従業員側の代表は,待遇や福利厚生の改善,ストの間の賃金保証などの要求を掲げ,会社側と合意した。こうして4月22日,現地工場は一部操業を再開。その日の稼働率は60%だった。23日にはこれを85%まで引き上げ,ようやく25日に通常稼働に持ち込んだ。

日系メーカーに“落ち度”なし

 太陽誘電とユニデンの現地工場で発生したストのほかにも,キヤノンとフジクラの珠海にある現地工場が,反日デモのデモ隊による投石行為を受けた。さらに,ミツミの珠海にある現地工場の周辺で反日デモが起きたという情報もある。ソニーによれば,反日デモのデモ隊の標的になることを恐れた一部の店舗から,製品が一時的に撤去されたほか,中国市場の「バイオ」シリーズのWebサイトがサイバー攻撃を受け,数日間パソコンの販売が止まる被害を受けたという。

 ここで重要なことは,日系メーカー側に直接の“非”がないことだ。例えば,太陽誘電の中国現地工場で従業員が反日デモを起こした動機は「誤解」に基づくものだ。太陽誘電が最低賃金を無視したわけでも,知らなかったわけでもなく,同社に直接の落ち度があったとは言えない。ユニデンも,過去の労働争議で従業員側と合意した改善策を実行に移している最中に,ストが起こってしまった。ソニーにしろ,自動車メーカーにしろ,日系メーカーは中国国民の怒りを買うようなことを特にしているわけではないのだ。それでも中国国民や従業員からデモやストの標的にされた理由を探るなら,「日系メーカーだから」という,日本人からすると何とも理不尽なものとなるだろう。(次回に続く

    連載の目次
  1. 怯える日本企業
  2. 狙われた現地工場
  3. 理不尽な理由
  4. 貧富と腐敗
  5. 壊滅するメーカー
  6. 意志疎通の力
  7. 正面を切る対峙
  8. 不良社員の変身
  9. 中国依存からの脱却
  10. 持続的成長への布石
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