アジアの新興国のキャッチアップが激しさを増す中で,依然として日本企業が高い競争力を発揮している分野の一つが光学分野である。テーマサイト「ナノテク・新素材」の2007年ランキングに光学技術関連のニュースが多いのは,「光学分野における優位性を維持したい」という意欲の表れであろう。日本企業が光学分野で強いのはなぜか。それは,材料と加工法の微妙な擦り合わせが必要であり,できあがった部品や製品を見ただけでは,なかなか真似ができないからだと思われる。

▼ 2007年「ナノテク・新素材」記事ランキング

順位記事タイトル日付
1レンズの反射率を下げてデジカメを高画質化,松下電器らがモールド法による微細周期構造を光学ガラスに設ける技術を開発06/06
2「商用の量子コンピュータを開発」,カナダのベンチャー企業が発表02/16
3【燃料電池展】「水は使いません」,栗田工業の固体状メタノール燃料電池が進化02/07
4圧力で色が変わる有機蛍光材料の分子設計手法を東京大学が確立03/14
5ソニー,ブドウ糖で発電するバイオ電池を試作--メモリータイプの「ウォークマン」などで音楽再生08/23
6東海大,インジウムを使わない新しい透明導電材料を開発10/30
72.14の高屈折率を達成,住田光学がプレス成形用光学ガラスを開発01/16
8熱拡散性が金属並みの植物系プラスチック,NECが開発04/09
9極薄の「紙」がキャパシタや電池に,米RPIがカーボン・ナノチューブで開発08/16
10【nano tech】NEC,高分子フィルム上にカーボンナノチューブを塗布したトランジスタを開発02/21

(集計期間:2007年1月1日~12月16日)

 例えば,ランキングトップに輝いた松下電器産業らの微細周期構造を光学ガラスに設ける技術にしても,反射を防止したい光の波長よりも短い周期構造をガラス表面に設けるには微細加工技術はもとより,ガラスや型の材料など加工技術と材料技術を高度に融合した手法が必要だったと思われる。

反射率を0.56%まで低減させた光学ガラス
反射率を0.56%まで低減させた光学ガラス (画像のクリックで拡大)

 また光学分野で注目されたのが,フラットパネル・ディスプレイ(FPD)や白色LED向けの透明電極向けに多用されているITO(インジウム・スズ酸化物)の代替材料の開発である。原料のInの価格が高騰していることが引き金であった。これまで,ZnO(酸化亜鉛:Zinc Oxide)の開発が先行していると思われていたが,様々な新素材が提案されるところが日本の研究陣の底力である。

 例えば,ランキング6位になった,東海大学が開発した水酸化マグネシウム。水酸化マグネシウムの結晶中に炭素が入りこんでいる,というユニークな構造である。水酸化マグネシウムが透明性を,炭素ネットワークが導電性を提供している,という異種材料の複合化の考え方は,他の材料開発でも参考になりそうである。

 このほか,ランキングで目立ったのは,燃料電池などのエネルギー関連や植物系プラスチックなどのニュース。地球温暖化問題や廃棄物問題など環境問題の解決策を材料に求める志向が見て取れる。