[図1]ソニーが試作したブドウ糖で発電するバイオ電池
[図1]ソニーが試作したブドウ糖で発電するバイオ電池
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[図2]ブドウ糖で発電するバイオ電池の動作原理
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 ソニーは,ブドウ糖を酵素で分解して発電するバイオ電池を試作し,それを電源として,メモリータイプの「ウォークマン NW-E407」とパッシブ型スピーカー(ウォークマンからの電源供給で作動)で音楽を再生することに成功したと発表した(図1)。試作したバイオ電池(ユニット)の主な仕様は,最大出力が約50mW,外形寸法が幅39×高さ39×奥行き39mm,筐体を除く電池部の実質的な容量が約40cc。ブドウ糖溶液や酸素といった電池内で反応させる物質を自然拡散で電極に取り込むパッシブ型のバイオ電池としては,世界で最高の出力を実現しているという(2007年8月23日現在,ソニー調べ)。ウォークマンによる音楽再生では,同ユニットを四つ使用した。

 ブドウ糖で発電するバイオ電池では,負極にブドウ糖を分解する酵素と電子伝達物質を固定化したもの,正極に酸素を還元する酵素と電子伝達物質を固定化したものを使う。それら二つの電極でセパレータを挟むことにより,同電池を構成する。

 発電のメカニズムは次の通り(図2)。まず,負極側で,外部からブドウ糖(グルコース)の水溶液を取り込み,そのブドウ糖を酵素で酸化分解し電子と水素イオンを発生させる。具体的には「グルコース→グルコノラクトン+2H+2e」と反応させる。

 ここで取り出した水素イオンは,セパレータを介して正極側に移動。電子も外部回路を経由して正極側に移動する。正極側では,空気中の酸素を取り込み,それを負極側から移動してきた水素イオンや電子と触媒下で反応させることにより水を生成する。要するに「(1/2)O2+2H+2e→H2O」といった還元反応を起こさせる。同電池では,こうした一連の電気化学反応を通じて電子が外部回路を移動する際に,電気エネルギを取り出す。

 ソニーが今回,バイオ電池の出力向上を目指して取り組んだのは,主に次の3点である。(1)酵素と電子伝達物質(電子伝導を助けるための物質)を,活性を維持した状態で負極に高密度に固定化する技術の開発(2)反応に必要な酸素を効率的に取り込めるようにするための正極における水分量を適正に保つ技術の開発(3)電解質の最適化---だ。

 (1)では,酵素や電子伝達物質を固定化する「のり」の役目を果たす物質として,異なる符号のイオン性を持つ2種のポリマを活用した。二つのポリマの静電相互作用を利用して酵素や電子伝達物質を電極上に高密度に固定化し,さらにその際のオンバランスや固定化膜電極作成プロセスを最適化することで,ブドウ糖を分解して電子を取り出す効率を飛躍的に向上させたとしている。

 (2)については,酵素と電子伝達物質を固定化した多孔質カーボンを正極に採用するとともに,セパレータにはセロハンを使用。併せて,それらの構造やプロセスを最適化することで,正極を適度に湿った状態に保てるようにしたという。

 (3)に関しては,電解質に含まれるリン酸ナトリウム緩衝液の濃度を,通常の0.1M程度から1Mに変更した。同社は,それにより電極表面に固定化した酵素の活性を効率的に引き出せるようになることを見いだし,発電特性の向上につなげたとしている。

 なお,試作したバイオ電池では,以下のような物質や材料を使っている。まず酵素は,負極側がグルコース・デヒドロゲナーゼとジアホラーゼ,正極側がビリルビン・オキシダーゼ。電子伝達物質は,負極側がビタミンK3と補酵素NADH(還元型ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド),正極側がフェリシアン化カリウム。電極材料は多孔質カーボン,集電体材料はチタンメッシュ,セパレータ材料はセロハン。ブドウ糖溶液は,グルコース水溶液(0.4M)とリン酸ナトリウム緩衝液(1M,pH7.0)の混合溶液。

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