多層カーボン・ナノチューブを生やしたセルロースのシート。写真提供:Rensselaer/Victor Pushparaj
多層カーボン・ナノチューブを生やしたセルロースのシート。写真提供:Rensselaer/Victor Pushparaj
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 米国ニューヨーク州の工科大学であるRensselaer Polytechnic Institute(RPI)は,セルロースとカーボン・ナノチューブから成る電気2重層キャパシタおよびLiイオン2次電池を開発したと発表した(発表資料)。厚さは人間の髪と同程度の数十μmと薄く,紙のように曲げられる。RPIの研究者は「将来的には,電池をロール・ツー・ロールによる印刷技術で製造することが可能になるはず」と主張する。技術の詳細は2007年8月21日付けの学術雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に発表する。

 RPIが開発したのは,(1)多層カーボン・ナノチューブ(MWNT:multi-walled nanotubes)をブラシのように生やした,セルロースを主成分とする薄いシート,(2)(1)を2枚用いた電気2重層キャパシタ,(3)(1)を1枚とLi電極を用いたLiイオン2次電池,である。

 セルロースのシートは多孔質で,イオン性液体(RTIL:room-temperature ionic liquid)である[Bmin][Cl](1-butyl,3-methylimidazolium chloride)などを重量比で最大25%までしみ込ませて利用する。これを2枚,MWNTのブラシが外側になるように張り合わせ,外側にTi/Auの膜を電極として形成すると電気2重層キャパシタとなる。一方,Liイオン2次電池はシート1枚とLi電極を,イオン性液体の代わりにLiPF6などの電解液を挟んで張り合わせ,外側にAl箔の電極を付けたもの。なお,いずれも製造方法は明らかにしていない。

 電気2重層キャパシタに用いる[Bmin][Cl]などのイオン性液体は,不揮発性かつ幅広い温度で安定などの特徴を備える。このイオン性液体がセルロースに空いた直径が50±5nmの孔を通って,電荷をやり取りする。

冷凍庫内でも体内でも動作可能

 電気2重層キャパシタとしての性能は,静電容量が22F/g,動作電圧が最大2.3Vで,エネルギー密度は約13Wh/kgと,既存の電気2重層キャパシタ並みに大容量である。単位面積当たりの重さは15mg/cm2と非常に軽い。加えて,[Bmin][Cl]は水分を含まないことから,動作温度範囲は-77~+150℃と非常に広い。温度を-196℃にまで下げるとキャパシタとして動作しなくなるものの,その後室温に戻すと完全に機能を回復するという。現時点で充放電を100回以上繰り返しても良好な特性を維持することを確認している。

 RPIによれば,電解液として,イオン性液体のほかに,水酸化カリウム(KOH)水溶液や人間の血液,汗,尿といった体液を利用しても同様の動作性能を発揮するという。このため,ペース・メーカーのような体内で動作する機器の電池としても利用できる見通しという。

キャパシタと2次電池のハイブリッド型も可能に

 Liイオン2次電池は,充電時の電圧が最大3.6Vで,10mA/gの一定出力で放電する。電池の容量は最初の充電時は最大430mAh/gと大きいが,2回目以降は110mAh/g以下に落ちてしまう。

 RPIは今後,電気2重層キャパシタとLiイオン2次電池を組み合わせたハイブリッド型のデバイスを作る計画。「キャパシタと2次電池の二つの特性を同時に発揮できる完全なハイブリッド型になる」(RPI)見通しであるという。
 

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