Mg(OH)2の結晶模型を手に,新透明導電膜の説明をする東海大 准教授の千葉氏
Mg(OH)2の結晶模型を手に,新透明導電膜の説明をする東海大 准教授の千葉氏
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黒い膜を水蒸気雰囲気下で「放置」するだけで10〜15分後に透明になる。
黒い膜を水蒸気雰囲気下で「放置」するだけで10〜15分後に透明になる。
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すっかり透明に
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可視光領域での透過率の平均は約90%。赤線が今回の材料の透過率。
可視光領域での透過率の平均は約90%。赤線が今回の材料の透過率。
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 東海大学 開発工学部の研究者は2007年10月30日,水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を主成分とする材料を用いて透明導電膜を開発したと発表した。電気抵抗率などの特性はまだ低いが,材料の調達コストが安く製造プロセスが単純であることなどを生かして,液晶パネルなどに使われている透明導電膜であるITO(インジウム-スズ-酸素)の代替を目指すという。

 透明導電膜を開発したのは,東海大学 開発工学部 教授の久慈俊郎氏と同学部 准教授の千葉雅史氏の2人。透明導電膜を構成する元素は,マグネシウム(Mg),酸素(O),水素(H),そして炭素(C)である。X線回折による構造解析の結果から,この導電膜は「Mg(OH)2の結晶中にCが入り込んだ構造になっている」(久慈氏)と説明した。Mg(OH)2の結晶は本来透明。このため,「Mg(OH)2の結晶が透明性を,結晶中のCのネットワークが導電性を提供していると考えられる」(東海大学の千葉氏)。

Mgが水と反応して透明に

 製造プロセスには,RFマグネトロン・スパッタリング法を用いる。金属Mgとグラファイトを低い真空中でスパッタリングし,MgとCの混合物を成膜する。温度の制御はせず,基本的に室温であるという。その後,水蒸気雰囲気下で10~15分放置するだけで,H2OがMgと徐々に反応して不透明だった膜が透明に変わる。「(炭素が入っていること以外は)金属Mgを水に入れると発熱反応を起こして,Mg(OH)2とH2が生成するのと同じ原理」(久慈氏)。出来上がった透明導電膜の厚みは2.4μm。結晶の粒径は数十~数百nmである。

 スパッタリングでCを入れない場合は,「比抵抗が非常に高い絶縁体の結晶になる」(久慈氏)。今回,Cを入れることで10-1(Ωcm)程度の比抵抗値を確認できたという。この比抵抗値はITOの10-4(Ωcm)に比べて非常に大きい。それでも「ITOやZnOの開発当時も10-1(Ωcm)程度だった。今後の研究で比抵抗を大きく下げられるはず」(東海大学の千葉氏)。「Cの比率などを調整し,Cのネットワークを最適にすることで透明性を維持したままITOの導電性を超える可能性がある」(久慈氏)。

 これに対し光の透過率は当初から比較的高い。Cを入れて成膜した材料の光透過率は380nm~1μmの波長領域で平均89.8%。赤外の領域はさらに透過率が高くなる。「今後は,粒径を小さくして均一性を高め,反射率などを下げることを検討している(千葉氏)。

 実用化に向けての課題は多い。「膜の基板への密着性,抵抗値の安定性,温度依存性,半導体になるかどうかなどの検証はこれから」(久慈氏)。ただし,Mg(OH)2は330℃でMgOとH2Oに分解するが,100℃以下ならばほぼ安定であるという。

メーカーと共同研究して実用化を目指す

 久慈氏は「この研究を大学内に留めておくつもりはない。メーカーと共同で積極的に実用化をはかりたい」と,メーカーの参加を呼びかけた。既に,アイセック・ナノ中部というカーボン・ナノチューブの開発を手がけているメーカーの参加が決まっているという。

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