右下がカーボンナノチューブを溶媒に分散したインク,その左が塗布により作成したトランジスタの電子顕微鏡像。上がフィルム上に作成したトランジスタの外観(会場での説明パネル)
右下がカーボンナノチューブを溶媒に分散したインク,その左が塗布により作成したトランジスタの電子顕微鏡像。上がフィルム上に作成したトランジスタの外観(会場での説明パネル)
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 NECは,単層カーボンナノチューブPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム上に塗布することによってトランジスタを試作した,とナノテク関連展示会「nano tech2007」(2007年2月21~23日,東京ビッグサイト)で発表した(図)。これまでのところ,移動度1cm2/Vs,オン/オフ比105と,塗布型では最高レベルの特性を得ている。今後,材料や製法を改良することによって,移動度10~100cm2/Vs,オン/オフ比107レベルを目指し,大画面ディスプレイなどのフレキシブル・エレクトロニクス分野での実用化を目指すという。

 使用した単層カーボンナノチューブには,レーザアブレーション法(電気炉中でカーボンブラックと触媒金属の混合物をレーザで蒸発させてカーボンナノチューブを合成する手法)などで製造した入手しやすいものを使っており,半導体性カーボンナノチューブが2/3,金属性カーボンナノチューブが1/3入っている混合物である。長さは数μm。この単層カーボンナノチューブを有機溶媒(ジクロロエタン)に溶かしてスピンコーティングまたはディップコーティングで塗布する。

 単層カーボンナノチューブは凝集しやすいので,超音波で分散させている。ただし,分散させても数十日で凝集してしまうので,将来的には長時間分散状態を維持できるように,材料に工夫が必要だと見ている。また将来的にはインクジェット法が適用できるようにインク材料も改良したいとする。

チャネル長の調整がポイント

 塗布後にAu(金)製のソース電極とドレイン電極を作り込んでトランジスタを作成する。ポイントはチャネル長の調整だったという。チャネル長と共にカーボンナノチューブの分子長を調整することも重要だったとする。というのは,金属性カーボンナノチューブが含まれているのでチャネル長が短いとオン/オフ比が稼げない。そのためある程度移動度を犠牲にしてチャネル長を長くとる,という微妙な調整が必要とされるのである。「純度100%の半導体性カーボンナノチューブが入手可能になれば,移動度とオン/オフ比ともに向上できる」とブースの説明員は語っていた。

 なお,半導体性カーボンナノチューブを単離する試みとしては,これまで米IBM社などが導電性の差を利用して通電によって金属性単層カーボンナノチューブを焼き切る方法を開発したが,実際には通電の条件などを最適化するのが難しいという問題を抱えている。このため,より簡便で低コストな手法で単離する手法の開発が活発化している。例えば,産業技術総合研究所は2006年,過酸化水素水中で熱処理することにより,半導体性単層カーボンナノチューブの方が早く酸化・燃焼する原理を使って,金属性単層カーボンナノチューブの含有量を80%まで濃縮することに成功した(Tech-On!の関連記事1)。純粋な半導体性カーボンナノチューブをデバイス研究に使える日は近いかもしれない。

 塗布型のトランジスタとしては,ペンタセンなどの有機半導体を使う方法もあるが(Tech-On!の関連記事2),移動度が0.1~1cm2/Vsと低く,カーボンナノチューブの方が特性面でメリットがあると説明員は見る。また,カーボンナノチューブは有機半導体よりも安定性に優れるという。なおNECは,実験データの詳細を2007年3月30日に開催される「第54回応用物理学関連連合講演会」で発表する。