D-Wave Systems社の量子コンピュータ用チップ「Orion」。16qubitsを集積したチップをさらにパッケージにまとめた。
D-Wave Systems社の量子コンピュータ用チップ「Orion」。16qubitsを集積したチップをさらにパッケージにまとめた。
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Orionのダイの写真。8個の素子を円形に並べたものが1qubit。それをさらに16個,相互接続した。
Orionのダイの写真。8個の素子を円形に並べたものが1qubit。それをさらに16個,相互接続した。
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 カナダのベンチャー企業であるD-Wave Systems,Inc.は米国時間の2007年2月13日に,「商用になり得る規模の量子コンピュータを開発した」と発表した(発表資料)。16個の「量子ビット(qubit)」を用いて構築したシステムで,「離散最適化問題を解くことが可能」と主張する。すでに一部の報道機関にはシリコンバレーの「Computer History Museum」で,2種類のアプリケーションを解くデモを公開した。

 少し前には「実現には数十年以上かかる」「1億年以上かかる」(ある日本人の量子コンピュータの研究者)という指摘もあった同技術だが,D-Wave Systems社は「開発した量子コンピュータを2007年第2四半期以後に大手企業などに販売する予定」と,「夢物語」から一気に実用化に進む可能性が出てきた。

 D-Wave Systems社は,カナダのバンクーバの大学 University of British Columbiaの大学発ベンチャーとして1999年に創業した企業。電子の波動関数の振動モードの一つである「D-Wave」を社名とし,「量子コンピュータの開発と販売」を事業の柱とする。同社が今回qubitに用いたのは,低温での超伝導で知られるJosephson素子。これを4×4の格子状に16個並べて2次元的に相互接続した。

 同社によればこのシステムは従来のコンピュータでは非常に時間のかかる離散最適化問題を効率よく解くことができるという。この問題は例えば,複数の都市をセールスマンが回る際の最も効率のよいルートを探すような問題(いわゆる「巡回セールスマン問題」)の集合で,工学でよく用いられる線形計画法なども含まれる。今回のデモでは,(1)分子のデータベースを利用したパターンマッチング,(2)ある条件の下で様々な人を席につかせる最適解を求める(例えば,結婚式場で参加者の席順を決める),といったアプリケーションを解いて見せたという。

 同社は一般のユーザー向けにソフトウエア開発環境も開発中であるという。これは,ユーザーが計算したいアルゴリズムとデータを,同社の量子コンピュータに適したプログラムに翻訳するもの。D-Wave Systemsはこの開発環境をWebサービスの一種としてユーザーに提供するという。