NECが開発した,金属並みに高い熱拡散性を備える植物系プラスチック。同社のデータ。
NECが開発した,金属並みに高い熱拡散性を備える植物系プラスチック。同社のデータ。
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植物系の樹脂材料を添加して炭素繊維同士を網目状に結合させ,熱が効率的に伝わるようにした。記者会見での発表資料。
植物系の樹脂材料を添加して炭素繊維同士を網目状に結合させ,熱が効率的に伝わるようにした。記者会見での発表資料。
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熱拡散性がステンレスに比べて約2倍高い。記者会見での発表資料。
熱拡散性がステンレスに比べて約2倍高い。記者会見での発表資料。
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熱の拡散に異方性があり,材料の平面方向に熱が拡散しやすい。そのため,機器の筐体に使った場合,発熱量の大きいデバイスと接した部分が高温になりにくい。記者会見での発表資料。
熱の拡散に異方性があり,材料の平面方向に熱が拡散しやすい。そのため,機器の筐体に使った場合,発熱量の大きいデバイスと接した部分が高温になりにくい。記者会見での発表資料。
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 NECは,金属並みに高い熱拡散性を備える植物系プラスチックを開発した(リリース)。トウモロコシなどを原料とするポリ乳酸樹脂に,炭素繊維を10~30%添加して作製する。ステンレスに比べて熱拡散性が2倍高く,重量が1/5と軽い。携帯機器などの筐体向けで,2008年度中に量産技術を確立する。

石油系の1/2に軽量化

 従来,石油系樹脂に炭素繊維を添加して熱拡散性の高いプラスチックを試作した例はあったが,植物系樹脂を使って実現した例は初めてという。今回の材料は,石油系樹脂を使うものに比べて三つのメリットがある。(1)重量を1/2程度に軽くできる。(2)成形性が高いために,射出成形のような低コストの製造法で作製しやすい。(3)環境負荷が小さい。

 このうち,(1)と(2)は熱拡散性を高めるために必要な炭素繊維の量を1/2以下に低減できることに起因する。新たに開発した植物系の樹脂材料を添加して炭素繊維同士を網目状に結合させ,熱が効率的に伝わるようにして実現した。

機器筐体の高温化を抑制

 機器の筐体に現在使われているステンレスと比べると,重量が軽いほか,発熱量の大きいデバイスと接した部分が高温になりにくい利点がある。熱の拡散に異方性があり,材料の平面方向に熱が拡散しやすいことによる。ステンレスでは熱が等方的に拡散するため,発熱量の大きいデバイスと接する個所では,筐体の外側に向かって拡散する熱によって高温になりやすい欠点がある。

 今回の材料の実用化に向けた課題はコストの低減である。NECは,ポリ乳酸樹脂にケナフ繊維を添加した植物系プラスチックを携帯電話機の筐体向けなどで実用化済みだが,この材料に比べるとコスト高になるという(Tech-On!関連記事)。添加する炭素繊維が数千~1万円/kgと高価なためである。低コスト化に向けて,「炭素繊維の含有量を数%に低減する方法を検討中」(NEC ナノエレクトロニクス研究所 主席研究員 兼 エコマテリアルRG 研究部長の位地 正年氏)という。こうした手法によって,「(代替を狙う)ステンレスと同等の水準までコストを下げられる」(同氏)としている。