レンズの反射率を下げてデジカメを高画質化,松下電器らがモールド法による微細周期構造を光学ガラスに設ける技術を開発
松下電器産業と産業技術総合研究所らの研究グループは,モールド法によって光学ガラスに1μm以下と光の波長以下の微細な凹凸構造を周期的に設けることで,光学ガラスの反射率を下げる技術を開発した。デジタル・カメラや光ディスク装置の光ヘッドのレンズに向ける。
今回開発した手法を利用すれば,反射防止膜を設ける場合に比べて,レンズに入射する光の波長の違いや光の入射角の変化によって反射率が変わりにくくなるという。さらにレンズ成形後,反射防止膜を設ける工程を省略できるので,製造コストの低減につながるとうたう。
デジタル・カメラや光ヘッドで用いる光学レンズでは,一般に反射防止膜をレンズ表面に設けることで反射を防止している。デジタル・カメラのレンズでは,表面での反射率などを低減させれば,写真の画質低下の一因となるフレアやゴーストといった現象を抑制できる。光ヘッドでは,レンズの反射率を抑制することで,光ヘッドの光学系の光利用効率を高めることにつながる。
屈折率変化を滑らかに
微細な周期構造によって反射を抑制できるのは,周期構造を設けた部分の実効屈折率が表面側からガラス側に向けて滑らかに変化するため。周期構造がないと,空気とガラスの屈折率差が大きいため反射が起きやすくなる。なお,今回使用したガラス材の屈折率は約1.6である。
反射率は周期構造によって変化する。深さを周期で割った値であるアスペクト比を高めることで反射率が低下する。ただし反射を防止したい光の波長よりも周期を短くする必要がある。今回,周期300nmでアスペクト比を1.6とした周期構造を平坦なガラスの表面に設けた(図1)。波長462nmに対する反射率は0.56%と,微細構造を設けない場合の5.2%に比べて1/10程度に抑制した。実際に測定していないものの,400〜700nmといった可視光の波長範囲で「同程度の反射率だと考えている」(松下電器産業)と説明する。求められる反射率は用途によって変わるものの,例えば光ヘッドで利用する場合は,1%以下あれば十分利用できるという。
周期構造を設けた面積は5mm角。モールド成型時に金型を離型しにくいといったことなどから,面積を大きくするほど周期構造を深くするのが難しい。つまりアスペクト比を高めにくくなるので反射率を下げづらい。7mm角の領域に周期構造を設けたところ,反射率は約1%だった(図2)。光ヘッドで利用されるレンズの直径は大きくても5mm,デジタル・カメラなどでは20mm程度だという。そのため,20mm角の大きさで製造することを目標に掲げる。
モールドに溝を形成
この光学ガラスの成形に使用する型(モールド)に,反射防止構造転写用の「溝」を形成するためのプロセスは,(1)モールド(上型)の表面にマスク材を成膜(2)スピンコートによりレジストを塗布(3)電子ビーム(EB)露光および現像によりレジストのドットパターンを形成(4)エッチングによりマスク材のドットパターンを形成(5)ドライエッチングによりモールド表面に溝を形成(6)溝形成後のモールド表面に離型膜を形成――というもの(図3)。レンズ成形時の温度は約400〜600℃に到達するため,モールド材には耐熱性が求められる。量産型の材料には炭化タングステン(タングステン・カーバイド)などの超硬合金を想定している。現在は検証段階ということもありモールド材に石英を使っている。超硬合金でも同様の溝を形成できるようにするための条件を確立することが今後の課題の一つである。
このモールドを用いた光学ガラスの成形プロセスは,基本的には従来のモールド加工とほぼ同じだが,成形時に真空条件が必要な点が大きく異なる。当初,研究チームでは不活性ガス雰囲気下での成形を試みたものの,金型とガラスの間に不活性ガスが取り残され,望み通りの反射防止構造を成形できなかった。従って,真空条件下での成形に切り替えたという。だが,真空条件下でなければ成形できないということになると,サイクルタイムへの影響が大きいため,実際の量産では多数取りなどにより見かけ上のサイクルタイムを縮めるための取り組みが必要になるようだ。
今後の実用化に向けた課題は,成形可能なレンズ(反射防止構造部)の大面積化と,曲面への反射防止構造部の形成である。
なお,今回の成果はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「次世代光波制御材料・素子化技術プロジェクト」から生じたもの。今回発表した研究グループのほか,コニカミノルタオプトなども参加しており,成果を発表している(Tech-On!関連記事)。












