これまで3回に分けて半導体メモリ市場を見てきたが,今回はCPUなどその他のLSI市場を含め,生産ライン側から見たトレンドを解説する。

 現在のLSI生産の中心は,直径200mm(8インチ)のSiウエハーを使うリソグラフィーである。しかし,今,注目すべきは,この2~3年で稼働が始まった直径300mm(12インチ)ウエハー対応の生産ラインだ。CPUや大容量・高速メモリなど付加価値の高いLSIの生産で主力となる。製造装置の2005年世界出荷でも,300mmウエハー対応機が台数ベースで7割を占める。

 この300mmウエハー対応ラインにどの程度投資できるか,何をどのタイミングで量産するか,巨大な設備産業だけに,LSIメーカーの300mmウエハー対応ラインの生産能力ではなく,実際の稼働状況,つまりウエハー投入量を見れば,LSIメーカーの勢力図がかなり鮮明にわかる。

300mm対応ラインは今が旬,2005年まで倍々ゲーム


 300mm対応ラインへの量産ウエハー(プライム・ウエハー)投入量は,2004年,2005年と対前年比約2倍の水準で増加中である。2006年以降の増分は対前年比50%増以下に落ちるだろう。生産量と成長率の両面で,本格的普及期の真っただ中にある(図1)。

図1●メーカー別300mmウエハー対応ラインへの投入量の推移(2005年は予測)

 投入シェアで他を圧するのは韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.と米Intel Corp.の2社。2005年にSamsung社が投入量でIntel社を抜きトップに立つ。両社は300mmウエハー対応ラインで生産する品目が好対照。Samsung社がDRAMとフラッシュEEPROMを中心に製造するのに対して,Intel社は言うまでもなくパソコンCPUで,その比率は50%以上である。実はIntel社の300mmウエハー対応ラインの生産能力はグラフに示した投入量よりも,もっと大きい(稼働率が低い)。メモリよりも利益率の高いCPUを生産しているため,余裕がある。

 両社の生産品目の差が,2006年以降のウエハー投入量シェアを大きく左右することになりそうだ。Intel社はパソコン生産の成長率に応じてラインを増強することは間違いない。年率10%弱のペースで投入量を増やすと見るのが妥当で,シェアは徐々に低下する。一方,Samsung社はパソコンの主記憶容量の拡大や,デジタル家電向け大容量フラッシュEEPROMなど,急激なビット需要増に対応して,ほぼ,300mm対応ラインへのウエハー世界投入量に占めるシェアを,現在の15%強のレベルを保つ形で拡大し続けるだろう。日経マーケット・アクセスは2006年の投入量シェアを,Samsung社が15.6%,Intel社は12.9%と予測した。

 いずれにしても,この2社をおいて,次世代の直径450mm(18インチ)ウエハー対応生産ラインを開発できる体力を持つLSIメーカーはほかにない。

2005年は台湾メモリ・メーカに積極姿勢


 図1とシェア構成比を示した図2を併せて見ると,投入量3位グループ以下の戦略が浮かび上がる。2005年投入量シェア5%~10%の間に5社がひしめくが,3位の台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.(TSMC)と7位の同United Microelectronics Corp.(UMC)は論理LSIのファウンドリー(製造受託)が中心。残る3社はDRAM製造が中心だ。300mmウエハー対応ラインを,ライバルに先駆けて2001年から積極稼働させたのがドイツのメモリ・メーカーInfineon Technologies AGである。同社はこの先行投資を武器にDRAMの低価格化を乗り切り,2004年には韓国Hynix Semiconductor Inc.を抜いてDRAM生産世界3位に躍り出た。ただ,同社の300mmウエハー対応ラインへの投資は一段落し,投入量シェアは大きく減少した。ちなみにHynix社が300mmウエハー対応のラインを稼働させたのは2005年5月下旬である。また,DRAM生産で世界2位の米Micron Technology, Inc.は一部300mmウエハー対応ラインを稼働させているが,中心は200mmウエハー対応ラインで,300mm対応ラインへの投資は鈍い。

図2●300mmウエハー対応ラインへの投入シェア推移(2005年は予測)

 逆にこのところ元気なのが,台湾のLSIメーカーだ。Infineon社を除く第2グループ4社ともが台湾メーカーである。その中でも,2004年後半から2005年にかけて勢いがあるのが,DRAM中心のPowerchip Semiconductor Corp.(PSC)とInotera Memories, Inc.である。2004年末のパソコン商戦向けのDRAM需要が比較的堅調に推移し,2005年上半期のDRAM閑散期でも極端な値崩れは起きなかったことが背景にある。

 逆にTSMC,UMCが論理LSIファウンドリーとしては例外的に強気の投資を続けていると言った方が適切かもしれない。両社とも,2005年2月の底には,生産ライン稼働率が65%程度とかなり低い水準だった。TSMCの場合,米IBM Corp.向けを中心に受注は堅いと見られているが,UMCの強気の投資には疑問の目を向ける関係者もいる。果たして300mm対応ラインでの生産に値する付加価値の高いLSIを安定的に受注できるかどうか。ライバルTSMCが攻勢をかける中,2005年から2006年にかけて不安要素を抱えている。

中国300mmウエハー投入シェアは外資系合わせても1%


 このほかのメーカについて,注目企業の動向を解説しておこう。日本のDRAMメーカー,エルピーダメモリは2004年に投入量シェア5%を上回ったものの,全世界の300mmウエハー投入量の増加ペースに追随するのがやっとである。現在の投資状況から判断すると,2005年,2006年と投入量シェアを若干落とす。もっとも同社の場合,資金調達さえクリアできれば生産設備の増強に極力早く手を着けたい考えである。

 東芝が300mmウエハー投入量シェアで上位に進出するのは2006年以降である。IBM社と共同開発中のゲーム機/コンピュータ用CPU「Cell」の量産が本格化することによって,2006年投入量シェアは4.6%と一気に上位に浮上する。逆にパソコンCPUの米Advanced Micro Devices, Inc.(AMD)は,同社が狙うパソコンCPUシェア20%を実現しても,年間生産量は3000万個程度。全量300mm対応ラインで自社製造しても,ウエハー投入量シェアでは1%程度にとどまる。

 注目の中国企業はどうか。結論から言えば,中国のLSIメーカー,台湾や日本メーカーの中国工場,合弁企業の生産すべてを合わせても300ウエハー投入量は,2004年末で月間5000枚と,世界シェアの1%ににとどまった。

 純中国メーカーの中でLSI生産ラインに投資し続けているのは最大手のSemiconductor Manufacturing International Corp.(SMIC)1社のみだ。そのほかはいずれも中国にとっての外資である。2005年の300mmウエハー投入量は中国全体で月間平均1万5000枚と3倍増になるが,それでも全世界投入量に占める比率は微々たるものである。短期的に見ても,投資が急拡大する気配は乏しい。中国のLSI生産ビジネスはファウンドリーである。それも台湾より安価に受注する必要がある。現在の台湾ファウンドリーが決して好調とは言えない状況下では,かなりリスクの大きなビジネスである。中国が世界の半導体工場に成長できるかどうかは,5~10年ほどの長いスパンで見る必要がある。


■菊池 珠夫■
野村総合研究所を経て,1996年に日経BP社「日経マーケット・アクセス」編集記者。2002年に日経BPコンサルティングが設立した後は,引き続き「日経マーケット・アクセス」で半導体やその応用機器市場の分析記事を執筆。

■キクタマのメモリ市場分析■
第1回シェア拡大から利益重視に向かうDRAMメーカー
第2回価格下落で2005年のDRAM世界生産額は14.4%増に減速
第3回フラッシュの成長はNAND型が支え,NOR型は厳しい状況
第4回NAND型フラッシュ,メモリ・プレーヤと携帯電話機用需要に火が点いた
第5回300mmウエハー対応ライン,2005年はSamsungが投入量でIntelを抜く
第6回安定成長へソフトランディングなるか,デジタル家電
第7回2005年のパソコン生産台数は6.7%増,金額はマイナス成長
第8回携帯電話機の生産動向,GSMは新興国向けでまだまだイケる
第9回2005年の液晶テレビは供給過剰に,生産調整はいつ?
第10回SCEIは部品不足か,PSP販売計画を下方修正

■「特別報告書」発行のご案内■
 日経マーケット・アクセスでは,携帯電話機やパソコンなど半導体メモリの応用製品と半導体メモリの生産動向について詳細にまとめた特別報告書「半導体メモリ/応用機器市場分析2005年4月」(年4回発行)の最新版を2005年4月27日に発行しました。詳しい内容はこちらでご覧になれます。