前回までは,メモリを中心にLSIの市場を解説した。今回から後半の5回は,LSIやディスプレイ・デバイスの応用製品,デジタル家電の市場を分析する。まず,パソコンや家電製品市場の全体を概観しよう。

 昨年(2004年)のデジタル家電市場を一言でまとめると,「過大な期待が招いた誤算の年」だった。デジタル・カメラ,液晶ディスプレイ応用製品,テープからDVDへの移行がハッキリした映像再生/録画機など,2003年まで,毎年5割を超える勢いで成長してきた製品では,参入メーカー各社が実需要を上回る生産計画を立てるのが普通。量産効果によって実現できるコストダウンを前提に,単価がある程度下落しても利益が出せる範囲でシェアを拡大し,価格設定をはじめとする市場に対する影響力を増すことを狙うからだ。

デジタル・カメラに見る期待と誤算の正体

 このような状況下で,2004年は実需が期待を下回った。実際どのような事態を引き起こしたのか,デジタル・カメラを例に見てみよう。

 世界のデジタル・カメラ生産で約9割を占める日本メーカーで構成する業界団体,カメラ映像機器工業会(CIPA)が2004年初めに発表した同年の年間成長率予測値は対前年比40%増だった。これに対して,デジタル・カメラ・メーカー大手6社の計画は,対前年比52.0%増。この6社の2003年実績は対前年比71.0%増だったから,成長鈍化は見込んでいたものの,業界団体予測よりはかなり強気と言えた。

 実際,2004年第1四半期はメーカーの予想以上に好調だった。対前年同期比で出荷台数は70.6%増。自信を深めたメーカーは多かっただろう。しかし,第2四半期は出荷台数が,対前年同期比47.0%増と急激に鈍化した。平均出荷単価の下落幅も,第1四半期の下落幅が前年同期に比べて10.8%だったのに対して,第2四半期は同14.8%と拡大した。

 ほぼ時を同じくして,世界市場の先行指標となる国内のデジタル・カメラ市場で「店頭販売はゼロ成長」,「世帯普及率5割突破」などの報道が相次いだ。これで一気にメーカー各社が成長率を下方修正,2004年下期を収益維持路線に転換した。それでも生産調整をうまく行えず,在庫を抱えたメーカーが続出した。

 結果,2004年の出荷台数はCIPA統計で対前年比38%増の5977万台と,年初予測とほぼ同じだった。通年で見ると出荷単価下落は前年比8%程度に収まり,同13%だった2003年よりも緩やかになった。しかし,これはあくまで平均値。不振だったメーカーが声をそろえるのが「大幅な単価下落」である。例えば,オリンパスの年間単価は17.6%も下落した(Tech-On!関連記事1)。京セラのようにカメラ事業から撤退するメーカも出てきた(Tech-On!関連記事2)。販売台数でキヤノンとトップを争うソニーは,2004年第1四半期から生産を抑え気味にして用心していたが,それでさえも単価下落の影響を受けたとしている。

 つまり,台数ベースで38%,金額ベースで26%と大きく成長をした市場でも,成長率を10ポイント過大に見積もれば,年間単価下落が10%未満にとどまっても,急激な収益悪化を招くメーカーが続出する。これが過大な期待が招いた誤算である。これと同じ現象が,前年比倍増で成長中の液晶テレビやDVDレコーダの市場でも起こりつつある。