LSI応用製品の中で最初に取り上げるのはパソコンである。1台当たりに用いられるLSIの数は,どのデジタル家電製品よりも多く,単価も10万円超の高額製品である。しかも,前回紹介したように世界生産台数は2004年に1億5000万台を超えた。金額ベースに換算すると年間生産約6億5000万台の携帯電話機を上回る規模になる。

 1990年代後半,年率平均16%の成長を続けてきたパソコン生産台数は,2000年のバブル崩壊で,翌2001年には一転して対前年比2.1%減のマイナス成長に陥った。現在はその回復期にある。成長率ピークは2003年で,2004年には減速したものの,実績は様々な事前予測よりやや高かった(図1)。

図1●パソコンの世界生産台数の推移(主要コンポーネントの供給状況を基に日経マーケット・アクセスが集計・予測した値。デスクトップ・パソコンにはショップ・ブランドなど,いわゆるホワイト・ボックス系を含まない。ホワイト・ボックスやリテール用メイン・ボードを含めた総生産台数は,2004年に1億8498万台)

 2004年,パソコンの性能面での進歩は,主記憶がDDR(Double Data Rate)型DRAMに世代交代が進んだ程度で,劇的なものではなかった。モデル・チェンジしても性能向上幅は過去に比べて小さく,部材の量産効果や歩留まり向上などの効果を背景に価格は単調に下落する。安定成長期における製品の典型的な傾向が続いた。

 パソコン価格の下落に輪をかけたのが,液晶パネル価格の暴落。本連載で解説してきたように,液晶パネルは2004年夏に供給過剰がハッキリしたことで価格が半分まで急落した。デスクトップ・パソコンのディスプレイが世界規模で見てCRTから液晶に切り替わる時期だったのに加えて,ノート型の比率が増す時期でもあった。価格が下がったことで,ようやく採用が広がり始めた。

 2005年も市場を取り巻く状況はほぼ,2004年と同じと見てよい。液晶パネルの価格は現在上昇中にあるが,この動きは長続きしない。パネル・メーカー各社が相次いで大型ラインを稼働させる見通しで,通年では大幅な供給過剰となるのは明らかだからだ。

 こうした状況から日経マーケット・アクセスは,2005年のパソコン世界生産台数を前年比6.7%増の1億6410万台と予測した。実際はもう少し増える可能性もある。2004年末からいわゆるBRICS(ブラジル,ロシア,インド,中国など)での需要が大きく伸び始めたからだ。ただ,これらの国の需要は,単価で見ると,従来のパソコン消費地である米国,欧州,日本よりもかなり低い。部材などの値下がりを考えると,パソコンの世界生産金額は,良くて前年並み,おそらくマイナス成長に陥るだろう。