デジタル・カメラの記録媒体として急成長したNAND型フラッシュEEPROM需要が,ブーストアップ中だ。新たな用途として「iPod suffle」に代表される携帯型音楽プレーヤ向け需要が急拡大しつつあることに加え,今後,携帯電話機向け需要が大きく増えることが確実だからだ。日経マーケット・アクセスはNAND型フラッシュEEPROMの2005年世界生産量を512Mビット品換算で約22億個と予測した(図)。対前年比2.4倍の容量である(Tech-On!関連記事)

図●NAND型フラッシュEEPROMの月間生産個数(2005年第2四半期以降は予測値)

デジカメの次はメモリ・プレーヤ


 フラッシュEEPROMを記録媒体に用いる携帯型音楽プレーヤのメモリ容量は,現在は256Mバイトと512Mバイトが主流である。しかし,競合するハード・ディスク装置(HDD)を使うプレーヤの記録容量が最低でも4Gバイト(32Gビット相当)なので,メモリ・プレーヤ向けのNAND型フラッシュEEPROMにも,よりビット単価の安い大容量品へのニーズが高い。これを受けて,1Gビット品から2Gビット品への生産切り替えが進む。

 2005年5月時点で,メモリ・プレーヤ・メーカー各社の生産計画を単純に合計すると,年間生産台数は7000万台以上になる。この通りに生産されれば,明らかにNAND型フラッシュEEPROMは供給不足に陥る。しかし,そうはなりそうもない。なぜなら携帯型CDプレーヤなど,メモリ・プレーヤ以外の携帯型音楽プレーヤの2004年の出荷台数が約5000万台,これにHDD/メモリ・プレーヤを加えても携帯型音楽プレーヤ市場全体で7000万台規模と見るのが妥当だろう。いかにメモリ・タイプに勢いがあると言っても,7000万台は行き過ぎだ。

 つまり,現在のメモリ・プレーヤ・メーカーの計画が強気に立てられ過ぎているわけで,年内に出荷台数の下方修正を余儀なくされるだろう。その場合,メモリ・プレーヤ向けNAND型フラッシュEEPROMの需要は急速に落ちることになる。

 こうした状況はフラッシュEEPROMメーカーも織り込み済みだ。2005年5月現在,NAND型フラッシュEEPROMは供給不足だが,NAND型フラッシュEEPROMメーカーは増産に慎重だ。半導体メーカーは,これまで需要の急上昇に踊らされて生産量を増やすと,受注のキャンセルで供給過剰になるという痛い目に何度も遭っているからだ。

携帯電話機向けでは2種類のニーズ


 NAND型フラッシュEEPROMの需要拡大のもう1つの要因は携帯電話機だ。2005年以降,メモリ・スロットを搭載した機種が急速に増え,このスロットに装着するNAND型フラッシュEEPROMの需要が急増する。

 2004年の世界全体の携帯電話機のうちメモリ・スロット搭載機比率は20%未満だった。日本で発売された携帯電話機はほぼすべての機種が搭載したが,世界ではまだメモリ・スロット付きは主流ではない。しかし,2005年以降はスロット搭載の動きが活発になる。携帯電話機メーカーでトップのフィンランドNokia社は,2005年にメモリ・スロット搭載機を増やし,2006年に搭載比率を約1/2に引き上げる計画のようだ。携帯電話機に音楽プレーヤ機能を搭載した場合,メモリ・スロットが必要と考えているからだ。

 また,携帯電話機では,前回述べたように,基本システム格納用の内蔵メモリを,NOR型フラッシュEEPROMからNAND型に切り替える動きもある。ビット単価の安いNAND型に切り替えることでコストを削減できるからだ。既にCDMA方式の携帯電話機では,内蔵メモリにNAND型を搭載するのが主流になりつつある。また,第3世代のW-CDMA方式でもNAND型の採用が増えそうだ。日本で普及しているW-CDMA方式の端末では,まだそれほどNAND型は使われていないが,価格重視の世界市場ではW-CDMA方式の端末で一気に価格の安いNAND型の搭載が進みそうだ。

 次回は,メモリだけでなく,LSI市場の全体指標として,最新の300mmウエハー対応生産ラインの動向を取り上げて解説する。


■菊池 珠夫■
野村総合研究所を経て,1996年に日経BP社「日経マーケット・アクセス」編集記者。2002年に日経BPコンサルティングが設立した後は,引き続き「日経マーケット・アクセス」で半導体やその応用機器市場の分析記事を執筆。

■キクタマのメモリ市場分析■
第1回シェア拡大から利益重視に向かうDRAMメーカー
第2回価格下落で2005年のDRAM世界生産額は14.4%増に減速
第3回フラッシュの成長はNAND型が支え,NOR型は厳しい状況
第4回NAND型フラッシュ,メモリ・プレーヤと携帯電話機用需要に火が点いた
第5回300mmウエハー対応ライン,2005年はSamsungが投入量でIntelを抜く
第6回安定成長へソフトランディングなるか,デジタル家電
第7回2005年のパソコン生産台数は6.7%増,金額はマイナス成長
第8回携帯電話機の生産動向,GSMは新興国向けでまだまだイケる
第9回2005年の液晶テレビは供給過剰に,生産調整はいつ?
第10回SCEIは部品不足か,PSP販売計画を下方修正

■「特別報告書」発行のご案内■
 日経マーケット・アクセスでは,携帯電話機やパソコンなど半導体メモリの応用製品と半導体メモリの生産動向について詳細にまとめた特別報告書「半導体メモリー/応用機器市場分析2005年4月」(年4回発行)の最新版を2005年4月27日に発行しました。詳しい内容はこちらでご覧になれます。