ほんの2年ほど前まで,フラッシュEEPROMと言えばNOR型のことを指した(図1)。世界生産額で見れば,2002年時点でも77%がNOR型だった。ところがデジタル・カメラの普及が始まった途端,記録メディアとしてNAND型の生産がいきなり拡大した。デジタル・カメラの生産台数増に加え,急速な高画素化によって,ビット単価下落を上回る需要が発生,2004年にはついにNOR型の生産額を抜いた。

図1●フラッシュEEPROMの生産額と成長率の推移(2004年までは実績値,2005年は予測値)

NOR型は携帯電話機向けが中心


 今回解説するNOR型は高速応答が可能な半面,ビット単価が高い。主な需要は携帯電話機の基本システム用である。携帯電話機の世界生産台数は2000年に年間4億台目前でいったん足踏み,2002年から回復が始まり2004年までの3年間,年間平均成長率21%で拡大したが,2005年の成長率は対前年比10%増には届かないだろう。日経マーケット・アクセスの予測では対前年比7.4%増の6970万台である。

 このほか,電子手帳,薄型テレビ,DVDレコーダ/プレーヤなどのデジタル家電にも需要が生まれたが,こちらは64Mビット以下の小容量品が中心。

 こうした背景から,2004年までの2年間,NOR型の生産額は,ほぼ携帯電話機の成長率と同じ年間2割増程度で推移してきた。価格下落をデジタル家電向けなどが穴埋めする格好だったと言える。しかし,2005年は,一転マイナス成長に陥る。携帯電話機の成長鈍化と急激なビット単価の下落が原因である。

NOR型メーカーの中には退場を迫られるところも


 過去1年以内の動きで見逃せないのは,64Mビット以下の小容量NOR型品の生産にブレーキがかかったことだ。2004年第3四半期以降,携帯電話機向け需要が大容量品へシフトしつつある中で,小容量品を多く使う中国の携帯電話機メーカーが生産台数を大幅に減らした。さらにデジタル家電向けでは,市場を過大評価したセット・メーカーが生産計画を下方修正し,メモリ・メーカーへの発注を減らした。これに季節変動要因が加わり,2005年第1四半期は低調に終わった。しかし,2005年第2四半期以降は応用機器の生産量が増え,それに伴ってNOR型フラッシュEEPROMの需要も回復するだろう。需要回復は一気に進む見通しで,2005年4月時点でNOR型フラッシュEEPROMの受注量を合計すると,2005年夏にはNOR型が一時的に足りなくなる恐れがある。

 128Mビット以上の大容量品は,高機能の携帯電話機向けが順調に伸びた一方で,価格は2004年第3四半期から2005年第1四半期までに30%以上も下落した。ようやく需要回復の兆しが見えたものの,売上額は2005年第2四半期も前年同期を下回る見込みだ。2005年第3四半期以降に供給不足に陥ったとしても,大きな価格上昇につながるとは考えにくく,売上額が対前年比でプラスになる時期については見通しが立たない。

 このように2005年にNOR型フラッシュEEPROM市場はそこそこ拡大するものの,需要を大幅に押し上げる要因が見当たらない。このような中,韓国Samsung Electronics Co., Ltd.が積極的に販売を強化したり,米Spansion LLC.が300mmウエハー対応生産ラインに投資するなど,メーカー間の競争は激しくなるばかりだ。競争が過熱すれば,NOR型フラッシュEEPROMの価格が急落し,一部のメーカーは撤退を余儀なくされる恐れもある。

図2●NOR型フラッシュEEPROMの四半期平均の月間生産個数の推移(2005年第2四半期以降は予測値)

 DRAMにしろ,次回解説するNAND型フラッシュEEPROMにしろ,いずれも大容量化により,ビット単価を下げつつ,需要拡大を図ってきた。しかし,NOR型フラッシュEEPROMはそうも行かない問題がある。最大の需要先である携帯電話機では,当然大容量化のニーズは高い。しかしNOR型のビット単価が,NAND型よりも高いので,携帯電話機メーカー各社はNAND型でそのニーズを満たそうとしている。既にCDMA方式の携帯電話機では,基本システム用の内蔵メモリにNAND型の採用が進み,NAND型搭載が主流になりそうだ。

 次回は急速に拡大するNAND型フラッシュEEPROM市場を分析する。


■菊池 珠夫■
野村総合研究所を経て,1996年に日経BP社「日経マーケット・アクセス」編集記者。2002年に日経BPコンサルティングが設立した後は,引き続き「日経マーケット・アクセス」で半導体やその応用機器市場の分析記事を執筆。

■キクタマのメモリ市場分析■
第1回シェア拡大から利益重視に向かうDRAMメーカー
第2回価格下落で2005年のDRAM世界生産額は14.4%増に減速
第3回フラッシュの成長はNAND型が支え,NOR型は厳しい状況
第4回NAND型フラッシュ,メモリ・プレーヤと携帯電話機用需要に火が点いた
第5回300mmウエハー対応ライン,2005年はSamsungが投入量でIntelを抜く
第6回安定成長へソフトランディングなるか,デジタル家電
第7回2005年のパソコン生産台数は6.7%増,金額はマイナス成長
第8回携帯電話機の生産動向,GSMは新興国向けでまだまだイケる
第9回2005年の液晶テレビは供給過剰に,生産調整はいつ?
第10回SCEIは部品不足か,PSP販売計画を下方修正

■「特別報告書」発行のご案内■
 日経マーケット・アクセスでは,携帯電話機やパソコンなど半導体メモリの応用製品と半導体メモリの生産動向について詳細にまとめた特別報告書「半導体メモリー/応用機器市場分析2005年4月」(年4回発行)の最新版を2005年4月27日に発行しました。詳しい内容はこちらでご覧になれます。