Apple社の話題は,いつも記事ランキングの上位に顔を出します。特に今回の発表では,米国発の金融危機で景気後退の懸念が高まる中,同社がどのような方向性を打ち出すかに注目していた読者が多かったのではないでしょうか。
筆者も,興味津々でApple社の発表を見守っていた一人です。結果はといえば,予想外の展開に驚かされました。事前に噂はあったものの,Apple社が筐体の製造技術をあれほどアピールするとは思いませんでした。同社によれば,同じ製造技術は1月発表の「MacBook Air」から採用していたとのこと。MacBook Airの筐体や機構部品は,日経エレクトロニクス分解班によって「無駄が多い」とみなされた代物です。もしこの辺りがセールス・ポイントになるのであれば,加工技術に長けた日本メーカーにとってはチャンスかもしれません。
筆者はむしろ,Apple社の態度が微妙に変わってきた気がします。技術の効用よりも技術自体のスゴさをアピールする姿勢が強くなっていないでしょうか。今回の加工技術がどれほどスゴかったとしても,普通のユーザーからするとどうでもいいことのはず。それよりも,本体の重さや剛性がどこまで改善したかが重要ですが,新「MacBook」は従来よりも大分軽くなったとはいえ2kgを超えています。
最近Apple社がiPhoneやiPodに導入した「Genius」(天才)というちょっと微妙な名前の機能にも,同様な技術偏重の匂いを感じます。多くのユーザーから集めたデータを基に楽曲を推薦する機能なのですが,筆者が先日使おうとしたら「この曲には、Geniusプレイリストを作成するのに十分な数の関連する曲がありません」と怒られました。似たような傾向の曲は入っているはずなのに,元の曲がマイナーだったため,どうやら関連性を判別できなかったようです。しかも,「やり直す」とか表示している割に,どうしていいのか分かりません。一ユーザーとしては,曲を推薦してほしいだけであって,アルゴリズムはどうでもいいのです。極論すれば,データが足りないならばランダムに推薦してくれた方がまだましです。iPodのランダム再生機能は,意外な選曲で定評があるほどですから。
Apple社の強さは,技術のスゴさよりもユーザーの利益を優先してきたことにあったはず。そこにほころびが生じているのならば,同社にとってはJobs氏の健康以上に憂慮すべき事態かもしれません。
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