「MacBook Airの外観は無駄がなくてスマートですけど,中身は無駄ばかりってことですか?」。作業の後に宇野記者が発したこの一言が,分解を終えた技術者たちの感想を代弁していた。

 日経エレクトロニクス分解班は,国内大手パソコン・メーカーの技術者複数名の協力を得て,再生が困難なところまでMacBook Airを解体してしてみた。その結果明らかになったのは,意外な内部構造だった。参加した技術者たちは,「事前の想像と全く違った」「ODMの製品も含めて,これまで見たどんなパソコンとも違う」と振り返る。

 技術者一同を驚かせたのは,非常にコストのかかる作りになっていたことである。例えば,部品を固定するネジの本数が極めて多い。キーボードを据え付けるものだけで,30本ほどもある。「全体のネジの本数は,うちの会社が作る場合と比べて数倍」(技術者の一人)。上下の筐体をつなぐヒンジや外装部品の内面を見た技術者たちは,後から切削加工を施している可能性を指摘した。

 こうした構造に技術者たちは一様に首をひねった。キーボードを固定するネジなどは,上から押したときにたわまないようにするといった効果があるのかもしれない。それにしても,もっといい方法があるのでは。「私がこんな設計をしたら,社内で絶対通らないですよ」(技術者の一人)。「技術的にすごいと感じるところは一つもない。我々ならもっと安く作れる」(ある技術者)。MacBook Airの内部構成は,設計の未熟さを表しているのだろうか。

 技術者たちは,このような構成になった一因を工場からのフィードバックがなかったことと見る。「日本のパソコン・メーカーでは,おかしな設計をすると工場から文句が出たり,コストを下げるために工場が独自の工夫を加えたりする。MacBook Airは,Apple社の言うとおりにそのまま実装したという印象を受ける」(ある技術者)。Apple社は,パソコンの製造を外部に全面的に委託している。今回分解した製品は,台湾HonHai Precision Industry Co., Ltd.が製造した可能性が高い(関連記事)。MacBook Airの内部構造は,この分業体制を反映したものといえそうだ。

 今回の分解結果から判断できるのは,Apple社はハードウエアの設計の出来映えや徹底的なコストダウンに,さほど気を遣っていないことである。それよりも外観のデザインやソフトウエア,ユーザー・インタフェースなど,同社が得意とする側面に力を注いだのだろう。この姿勢は,iPodやiPhoneなど同社の他の製品にも共通すると見られる。MacBook Airの不可思議な作りは,ハードウエアの細部まで手を抜かない日本的なものづくりに対する,強烈なアンチテーゼなのかもしれない。

 MacBook Airの分解の詳細は,『日経エレクトロニクス』2008年2月25日号に掲載予定です

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MacBook Airのメイン基板。中央下の大降りのLSIを回り込むような形のジャンパ線がある。
MacBook Airのメイン基板。中央下の大降りのLSIを回り込むような形のジャンパ線がある。
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キーボードには,ネジ留めするための微細な穴が無数に開いていた。
キーボードには,ネジ留めするための微細な穴が無数に開いていた。
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キーボードを取り付ける外装部品の内側。切削加工を施しているかどうかで,技術者の意見が分かれた。
キーボードを取り付ける外装部品の内側。切削加工を施しているかどうかで,技術者の意見が分かれた。
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ヒンジ部品。アルミダイカスト品を,さらに削り出した可能性があるという。
ヒンジ部品。アルミダイカスト品を,さらに削り出した可能性があるという。
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MacBook Airの液晶パネル。台湾AU Optronics Corp.製だった。
MacBook Airの液晶パネル。台湾AU Optronics Corp.製だった。
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