KDDIのmicroSD型無線LANカード
KDDIのmicroSD型無線LANカード
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ソフトバンクモバイルのフェムトセル
ソフトバンクモバイルのフェムトセル
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NTTドコモのLTE端末
NTTドコモのLTE端末
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 移動通信ネットワークは,現状のままでは,近い将来パンクしてしまう。iPhoneやソフトウエア・プラットフォームとしてAndroidを搭載するスマートフォンの急速な普及に加えて,カーナビやタブレット端末などが移動通信ネットワークにつながるからだ。米Cisco Systems社の予測によれば,移動通信のデータ通信量は,2009年から5年間で39倍に増えるという。

 こうしたトラフィック増に対応するためには,次の三つの方法が考えられる。第1が無線LANなど,移動通信以外のネットワークにトラフィックを逃がすという方法である。第2が一つの基地局アンテナがカバーする通信エリアを縮小(小セル化)し,接続する機器の数を減らすという方法。最後が周波数利用効率が高く,同時に大量の通信機器を収容できるネットワークを構築することである。2010年は,通信事業者各社の通信容量不足解消への取り組みが顕在化した年だった。

無線LANとフェムトセルへのオフロードが進む

 第1の方法である,他の無線通信方式にトラフィックを逃がす方法は,ソフトバンクモバイルやKDDIが積極的に取り組んだ。ソフトバンクモバイルは2009年冬/2010年春モデルの携帯電話機18機種に無線LAN接続機能を搭載した(関連記事1)。狙いは,多くの通信が発生しているという家庭での通信トラフィックを無線LANに逃がすことだ。また,3G通信機能付きiPadでは同社の公衆無線LANサービス「ソフトバンクWi-Fiスポット」の利用権を通信契約に付けた形で販売することで,店舗や地下街で発生するトラフィックを無線LANに逃がす施策を実施した。

 一方KDDIは携帯電話機のmicoroSDスロットに装着して無線LAN端末化できる「au Wi-Fi WINカード」を2010年夏モデルで用意した(関連記事2)。さらに,2010年10月22日には,公衆無線LANサービスを提供するワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)に出資し,半数を超える株式を取得した。今後,スマートフォンや携帯電話機と連携させ,公衆無線LANにトラフィックを逃がすサービスを提供していくものと見られる。このほか,KDDIは2010年6月にUQコミュニケーションズのWiMAXサービスとCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aの両通信方式に対応した端末を投入し,EV-DOのトラフィックをWiMAXに逃がすことにも取り組んでいる。

 第2の方法である小セル化については,各社ともフェムトセルの整備を進めている。フェムトセルとは,家庭の光ファイバによる通信サービスなどに接続する超小型の基地局のこと。NTTドコモが2009年11月下旬より商用化したほか,ソフトバンクモバイルも2010年5月から提供を開始した(関連記事3関連記事4)。また,KDDIは高層ビルやビル影など電波環境の悪いユーザーの救済を目的に,2010年10月から,KDDIが直接設置する形でフェムトセルの提供を始めている(関連記事5)。

LTEへの動きが活発化

 最後の周波数利用効率向上させた大容量の通信ネットワークについては,各社各様で対応が進んでいる。NTTドコモはLTEを選択し,2010年12月24日からサービスを開始する。当初はW-CDMAで利用している2GHzのうち,上り・下りそれぞれに5MHzを使う。通信速度は下り最大37.5Mビット/秒,上り12.5Mビット/秒,一部屋内では10MHz帯域を使い下り最大75Mビット/秒,上り25Mビット/秒のサービスにする(関連記事6)。

 イー・モバイルとソフトバンクモバイルはDC-HSDPAを選択した(関連記事7関連記事8)。イー・モバイルが2010年12月から,ソフトバンクモバイルが2011年2月以降にサービスを開始する。DC-HSDPAは,隣接する二つの搬送波(合計10MHz幅)を同時に利用することで最大42Mビット/秒のデータ伝送速度を実現する方式で,3GPPのリリース8で規格化されたものだ。規格上の最大データ伝送速度は下り42Mビット/秒である。DC-HSDPAは新しい変調方式を採用するLTEとは異なり,既存の設備の改良でサービスを開始できる。両社とも,世界的なLTEの動向や現時点での投資効率を考えてこうした選択をしたようだ。

 KDDIはCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aの搬送波(1.25MHz幅)を三つ同時に利用する「EV-DOマルチキャリア」を2010年冬/2011年春モデルの携帯電話機に搭載し,W-CDMA陣営に対抗する(関連記事9)。Rev.Aの最大データ伝送速度は下り3.1Mビット/秒,上り1.8Mビット/秒だったが,EV-DOマルチキャリアでは下り9.2Mビット/秒,上り5.5Mビット/秒に高速化する。

 NTTドコモ以外の移動通信事業者も2012年以降にLTEを導入する計画を立てている。2010年12月から2011年にかけて米国,欧州,中国でもLTEサービスが続々と開始される(関連記事11)。また,NTTドコモは2011年後半にLTEによる通信機能を搭載した携帯電話機/スマートフォンを投入する。2011年は国内外でLTEに向けた話題がより賑やかになりそうだ。