2005年下半期を見つめ直す意味で,Tech-On!では今,テーマサイトごとに「下半期トップ10」をお送りしています。今回は,ナノテク・新素材に掲載した7月~12月の記事の中からアクセス上位の記事をピックアップして,同サイトのテーマサイト・マスターである藤堂安人に下半期を振り返ってもらいます。(Tech-On!編集部)

 ほかの製品とは違う,差異化された「脱コモディティー製品」を実現するための手段として新素材への期待が高まっている。日経エレクトロニクスは,2006年1月2日号の特集「研究開発 物理に還る」の中で,屈折率が負の「左手系メタマテリアル」,磁化方向を磁界でなく電流で制御する「スピン注入磁化反転」,電子集団の特異な振る舞いを利用する「強相関系材料」といったこれまでの常識では考えられない特性を示す新素材の開発が活発化しており,低コストで高性能なミリ波レーダーなどにいち早く実用化しようという機運が高まっていると解説している。

 当テーマサイトでも,下半期中のアクセス数で第2位だった記事「ゼロ膨張を可能にする新しい負膨張材料」や,同第5位「オールプラスチックレーザーを可能にするナノ微粒子」のように,これまでにない特性や用途を拓く可能性のある新素材への注目が高かった。

 一方で,素材そのものの新規性だけでなく,新しい発想の「ナノ加工」に対する関心も高い。その傾向は,例えば第4位の「オリンパスと日本板硝子,低コストでガラス表面にnmからμmオーダーの凹凸を形成する技術を共同開発」に見ることができる。これは,従来の切削やリソグラフィーと違い,表面に局所的に高い圧力を加えることで圧縮されたところだけエッチングしにくくなり,尾根状に残って凹凸ができるという新しい発想のパターン形成手法を使っている。日本の製造業が得意とするものづくりの中核をなす,成形・加工技術を高度化するという意味でも注目を集めたものと思われる。

 いわゆる「旧素材」を改良する動きに対する注目度も高い。第8位「大同特殊鋼,多量の窒素を添加することで世界最高の耐食性を実現した高硬度ステンレス鋼を開発」はその代表である。旧素材でもまだまだやるべきことはあるのである。

 FPD(フラットパネル・ディスプレイ),燃料電池など,現在各社がしのぎを削って主導権を握ろうとしているコア技術の開発でも「材料」がキャスチングボートを握っている。一般のメディアではそうした部分までは踏み込まないことが多いためか,第7位「ヒートアップする日韓FPD『材料』革新競争」」や,第10位「【続報】東芝のパッシブ燃料電池,要素技術のポイントは電解質の材料」のように,コア技術開発の中で「材料」の占める役割を明らかにした記事が好評だった。

 トップ10にはまた,第1位「価格下落曲線がコスト下落曲線と交わる時」をはじめとした,コラム「材料で勝つ」の記事が4本入った。このコラムは「材料で日本製造業の競争力を強化しよう」をコンセプトにスタートしたものだが,途中で「材料」と「競争力」を無理に結びつけるのではなく,競争力強化の視点を重視して,必然性のある場合に材料について言及するという方向に方針転換させていただいた。第6位の「二律背反を同時に追求しなければ生き残れない」で見たように,日本の製造業は,価格下落による収益性の悪化,韓国などとの熾烈な競争,中国の追い上げといった環境にさらされ,「シェア vs 利益」「コスト vs 品質」「標準化 vs 差異化」などの二律背反の難問に直面している。処方箋を書くのは容易ではないが,読者の方々と一緒に,競争力向上のために何をすべきなのか,さらに議論を深めていきたいと考えている。

2005年下半期(9月1日~12月25日)アクセス・トップ10
順位 記事タイトル 掲載日
1 「価格下落曲線」が「コスト下落曲線」と交わる時 12/19
2 理研・JST,単一物質で「ゼロ膨張」が可能な新負膨張材料を発見 12/15
3 「携帯機器向け小型燃料電池市場が立ち上がる」---日経エレクトロニクスWPCフォーラムより 11/07
4 オリンパスと日本板硝子,低コストでガラス表面にnmからμmオーダーの凹凸を形成する技術を共同開発 11/04
5 レーザーもオールプラスチックに---物材機構がナノ微粒子と発光性樹脂でレーザー発振に成功 11/04
6 「二律背反を同時に追求しなければ生き残れない」 10/31
7 ヒートアップする日韓FPD「材料」革新競争---FPD Internationalの基調セッションを聴いて 10/25
8 大同特殊鋼,多量の窒素を添加することで「世界最高」の耐食性を実現した高硬度ステンレス鋼を開発 11/10
9 JR東海,高温超電導磁石を初めて搭載したリニアモーターカーの走行試験を開始 11/28
10 【続報】東芝のパッシブ燃料電池「要素技術のポイントは電解質の材料」 09/16