JR東海は2005年11月22日,高温超電導磁石を搭載したリニアモーターカーの走行試験を山梨リニア実験センターで開始した(超電導体の用語説明)。高温超電導磁石を搭載したリニアモーターカーの走行試験は初めてである。さっそく初日に時速501キロを記録した。試験走行は12月9日まで実施される予定で,高温超電導磁石の各部分の振動特性や温度特性を調べ,実用性を検証する(この超電導磁石に関するTech-On!の関連記事)。

 リニア実験線は3両編成で合計8個の超電導磁石を搭載している。これまでは、8カ所すべてにニオブ・チタン合金線材からなる低温超電導磁石を取り付けていた。低温超電導磁石は、液体窒素と液体ヘリウムによって約4K(-269℃)まで冷却して使用する。

 今回の試験では、8カ所のうちの1カ所を高温超電導磁石に置き換えた(図1)。発生させる磁界や磁石の外形寸法は高温と低温で同じにした。高温超電導磁石は、超電導臨界温度(Tc)が約110K(-163℃)のビスマス(Bi)系2223線材からなり,冷凍機で直接冷却して約20K(-253℃)で使用する(図2)。冷媒を使わないことから低温超電導磁石と比べて構造が簡素になり,信頼性を向上させることができる(図3)。

 磁石用線材の素材となったBi系高温超電導体は,1988年に科学技術庁 金属材料技術研究所(現 独立行政法人 物質・材料研究機構)で発見された。その後,他の材料系も含めて高温で超電導を示す新物質の探索や応用研究が世界中で激化した。しかし,新物質探索や応用の難しさから高温超電導研究から撤退する企業や研究機関が続出した。

 そんな中でも,住友電工などはBi系高温超電導線材を実用化させるための地道な研究開発を続けた。その結果,同線材の実力は人を乗せて走行する前提のリニアモーターカーに搭載できるまでになったのである。JRのリニア以外に,石川島播磨重工業が2006年には受注を開始する船用全超電導モーター推進装置にも用いられる(Tech-On!の関連記事)。

 高温超電導体は,線材以外でも薄膜として様々な機器や部品への適用に向けて応用研究が進められている。最初に高温超電導体が発見されたのはBi系の2年前の1986年である。その年から数えて20年目の今年、高温超電導体の実用化研究はどこまで進んだかを,「日経ナノビジネス」誌の2005年11月28日号にまとめた。

【図1】高温超電導磁石の外観写真と搭載場所
【図1】高温超電導磁石の外観写真と搭載場所
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【図2】高温超電導磁石と低温超電導磁石の比較
【図2】高温超電導磁石と低温超電導磁石の比較
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【図3】構造の比較
【図3】構造の比較
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