液晶ディスプレイやPDP(プラズマ・ディスプレイ)といったFPD(フラットパネルディスプレイ)パネルを使った薄型テレビの市場が拡大している。2005年には当初1500万~1700万台程度と見られていたのが,2000万台を超え,テレビ全体の10%を占めるのは確実な情勢である。2010年には1億台に達し,CRTテレビを台数で逆転すると予測されている。

 これまでのFPDパネルの主戦場は,パソコンだった。これに対してテレビ市場は,キー・プレーヤーであるパネル・メーカーにとってだいぶ勝手が違うようだ。2005年10月19日に開かれた「FPD International」の基調セッションでは,各企業のFPD事業のトップが戦略を語った。トップの多くは,競争条件で重要になってきたのは,新材料を採用し,それに独自の加工を加えることによって付加価値の高い部品と生産技術を開発することだと語る。

Samsung社Lee氏,「ビジネスのルールが変わる」

 韓国Samsung Electronics Co., Ltd.のLCD Business PresidentのSang-Wan Lee氏は,薄型テレビ向けパネルが高い成長を続けるとした上で「FPDパネル・ビジネスのルールが大きく変化している」とする。パネルの販売価格が大きく下がり,リスクが大きくなってきたという。同氏は,パネル価格の下落に比べて,部品・材料の価格は高止まりしていると危機感をもって訴えた。

 Lee氏が警鐘を鳴らすのは,大型テレビ向けにパネル・サイズが大きくなるにつれて,パネル・コストに占める部品・材料コストの比率が上がっていることである。Lee氏によると,部材コスト比率は大型テレビ向けパネルになると70%を超える。パネルをコストダウンするには部材のコストダウンが不可欠だと強調した。特に,バックライト・ユニット,ガラス基板などのコストダウンが緊急の課題だとする。

 抜本的なコストダウンのために,材料から見直して新しい部品構造を考案し,生産技術を革新する必要があるとSamsung社は考える。実際同社は,2006年末~2007年に稼動する見込みの第8世代のラインで,2008年後半からマスクやスパッタリングを使わない,新しい生産技術を導入すると宣言している(日経マイクロデバイス2005年9月号p.59,「Samsungの液晶生産革新宣言」参照)。

シャープ片山氏「材料からの一貫システム目指す」

 一方,シャープ常務取締役 液晶事業統括の片山幹雄氏は,部品・材料のコストダウンについてこう語った。「40インチ型以上のテレビ向けパネルを生産する計画で2006年10月に向けて建設を進めている亀山第2工場では,部品・材料のコストダウンを徹底的に進める」。そこには,シャープなど20数社が出資し,東北大学と産業技術総合研究所も参加した産官学の研究共同体「フューチャービジョン」の研究成果を盛り込んだという。

 フューチャービジョンではパネルメーカー,材料メーカー,装置メーカーが一体となって取り組んで「材料革命」を伴った新しい製造技術を開発してきた(日経FPD2006戦略編,p.170「材料革命」参照)。亀山第2工場では,フューチャービジョンであがった成果を使い,「ガラスや樹脂といった材料からの一貫生産システムを構築する」と片山氏は講演で語った。

 フューチャービジョンの成果の1つとして明らかになっているのが,これまでリソグラフィー法で製造していたカラー・フィルタをインクジェット法で作るプロセスである。プラスチック表面に射出成形によって微細な溝を成形し,そこにRBGのインクをインクジェットにより打ち込む。成形樹脂,金型加工技術,微細成形技術,インク材料といった材料技術と加工技術を駆使した技術であり,日本製造業のお家芸とも言えるだろう。一方でSamsung社も前述の第8世代のラインでやはりカラー・フィルタ製造向けのインクジェット技術を開発したと発表しており(Tech-On!の関連記事),新生産技術の技術開発競争はヒートアップするばかりだ。

 このようにFPDパネルにおける材料・部品の持つ付加価値がアップすることは,材料メーカーにとってチャンスである。ただし,リソグラフィーやマスク市場でシェアを確保している材料メーカーにとっては危機だとも言えるだろう。今後,FPDの製造技術がどの方向に向かうのか,関連部材,装置メーカーは最大限の注意を払う必要がある。

シャープ片山氏「擦り合わせで勝負」