先々週くらいからイベント続きで,製造業のトップ・事業責任者の講演を聴く機会がかなりあった。製造業を取り巻く環境は厳しい。トップの方々の講演を聴いていて,その厳しさは,二律背反に直面している苦しさとそれを克服することの難しさではないかと思った。

FPD,価格を下げると収益も下がる

 「FPD International」の基調セッションでは,各企業のFPD事業のトップが戦略を語った。前回の本コラムでは,コストダウンを進めるための次世代生産ラインの技術競争が激しさを増している状況を書いたが,背景にはシェアを拡大するためにパネル・メーカー各社がテレビ・メーカーに卸す価格を大きく下げてきている状況がある。結果として収益性が下がり,「ビジネスのルールが変わってきた」(韓国Samsung Electronics Co., Ltd.のLCD Business PresidentのSang-Wan Lee氏)というほどの経営環境の変化をもたらしている。つまり「シェアを拡大するために価格を下げる」ことと「収益を上げる」ことの二律背反である。

 「AUTOMOTIVE TECHNOLOGY DAYS 2005 Autumn」の基調講演(10月24日,幕張プリンスホテル)では,トヨタ自動車 常務役員の重松 崇氏に「進化し続ける自動車のエレクトロニクス」というテーマでお願いした。これからのクルマは,乗る楽しさ,ワクワク感,心地よさを追求する(maximize)と共に交通事故・渋滞,環境負荷をゼロにする(zeronize)ことを高いレベルで両立させることが大切だという。そのための重要な技術がクルマの電子化である。電子化は,部品の独立制御→ネットワークを介した車両統合システム→道路インフラなどとの統合制御システム…と統合する分野がどんどん広がってきている。

 こうした広い分野の統合開発を進めるためには,これまでの垂直構造で擦り合わせで行う開発手法では限界に来ている,と重松氏は言う。特に,組み込みソフト開発の工数が爆発的に増えていて,一つひとつ閉じた世界で開発している状況では効率が低すぎる。加えて,クルマづくりのグローバル化が進展しており,日本の開発スタイルが外国の部品メーカーに通用しないという問題点も浮上してきた。

 こうしたことから,電子構造の標準化を進めようという動きが活発化している(Tech-On!の関連記事)。「日本の自動車メーカーは欧米メーカーが苦労して作ってきた標準にただ乗りしてきたという批判が一部にあることもあり,日本側としても協力できるところは積極的に協力していきたい」(重松氏)という。

クルマの電子化,標準化を進めると差異化が難しくなる

 電子化する部分の構造を標準化するこということは,クルマがパソコンのようになるということでもある。つまりクルマのモジュラー化が進展することになる。以前の本コラムで「モジュール化」によってクルマが「モジュラー化」することはなさそうだと述べたが,クルマのモジュラー化が一気に進むとしたら,それは電子化であるに違いない。

 少なくともクルマの電子部品の分野では,「標準化を進めて水平構造・モジュラー的な構造でないと効率面でものが作れない状況を迎えている」ということと,「標準化を進めるとこれまで日本の自動車業界が得意としてきた擦り合わせ・垂直構造的な開発による製品の差異化戦略が通用しなくなる」という二律背反に直面することになった。

「擦り合わせ」によるものづくりの比較優位が低下